勝新太郎が「座頭市」を初監督した作品。
タイトルバックがまったくの無音。それから三味線の音が響き、弾いている婆さんと市がほとんど踏み板が抜けている橋の上にいるのを真下からあおったアングルから捉える。
市が婆さんにおあしをやろうとしたところで、突然カットが細かく割れ、婆さんが橋にしがみついていたり川の流れといったクイックカットが重なり、婆さんが落ちたらしい、と思うのだが、はっきりしない。
ストーリー的にはまったく不要なシーンだが、どこか市の身代わりになって落ちたようなニュアンスを出して、この市の贖罪意識というのはこの後の女の登場人物全般に変奏されていくことになり、
第一作「座頭市物語」で市は丸木橋を這って渡っていたのだが、そこからシリーズを重ねて、落ちるのを恐れるというよりもう市はもう落ちていて彼岸からまだ娑婆にいる自分を見ているようなニュアンスもある。
悪いヤクザを叩っ斬るというのはあまりカタルシスにはならない。というより、小池朝雄のヤクザの親分は最後手下にも仲間(大滝秀治の冷たい目!)に見放されてぶざまに逃げ回るのを追い詰めて斬るというのは勧善懲悪のバランスを完全に逸している。
代わりに、というか、女優さんたち全般を色っぽく魅力的に撮るのに力が入っている。東宝配給だが、画面の独特の艶は大映スタッフ(撮影・森田富士郎)のもの。
クライマックスの手を痛めつけられた市が仕込み杖を手にくくりつけて戦うという趣向は明らかに「続・荒野の用心棒」だろう。
終盤はジャズ調になるあたりの音楽処理が大胆。