
チェコの映画には不思議なくらい緻密で丹念に作りこまれた工芸品のようなのが多いが、これもその一つ。
とにかく小道具ひとつ、セットの汚しひとつに至るまで細心の注意を払い、少女のまわりにひとつの美的世界を構築しようとするエネルギーは大変なもので、メイクの下にあからさまに若い下地をのぞかせる祖母や、旅の聖職者とも芸人とも吸血鬼ともわからず、少女の父とも名乗ったりする奇怪な男などまがまがしい造形が同時に詩的でもあって圧巻。
原題はVALERIE A TYDEN DIVU 「ヴァレリエの不思議な一週間」で1932年にシュルレアリスム詩人Vítězslav Nezval ヴィーチェスラフ ネズヴァルが書いた同タイトルの小説を原作としている。1969年製作。
日本語初訳が出たのが2014年と最近でこのDVDが出たのが翌年。
amazonでおそろしく丹念に各国のソフトを見比べているレビューが出ているように熱狂的なファンを生むタイプの映画だろうなと思った。
イメージや構造が詩的で常に不定形に揺れ動いている再見三見を要求するタイプの作品。
だから監督のヤロミール・イレシュが「マルシカの金曜日」の監督だというのにはいささか驚いた。第二次大戦中のナチ占領下のチェコのレジスタンスに参加し22歳で死刑になった少女を描くハードな社会派映画だったから。