prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「エゴイスト」

2023年03月06日 | 映画
LGBTQ理解増進法が国会で審議されるかされないとか同性婚は認められるかといった話題が現実で展開しているので、もっと「社会派」的な角度から同性愛を扱っているのかと思ったらかなり違っていた。

ゲイに対する偏見や差別といった要素が実はここにはほとんど表立っては描かれない。 だから通常の意味というドラマチックな要素はあまりない。
原作では故郷でひどい差別や偏見にさらされたのが東京に出て行って、ほとんど服の好みが違うくらいの感じで性的嗜好の違いを受け入れる集団に出会えた、という叙述がある。
その集団が具体的に出てきて、当たり前に溶け込んでいるところが描かれている。

母親というのが大きなモチーフになっていて、鈴木亮平が早くに母親を亡くしていて、途中から宮川氷魚の母の阿川佐和子がその代わりのようになる。
同性愛者には 子供は出来ないから バカ政治家には生産性がないなどと 中傷されたりもするのだが、ここでは かなり思いがけない形で 一つの家庭が誕生するドラマでもある。

松永大司監督は劇映画監督デビュー前にドキュメンタリーの「ぴゅ~ぴる」で性同一障害(これは製作当時の呼称で、現在のDSMでは「性別違和 」と呼ぶらしい)のパフォーミングアーティストのぴゅ~ぴる Wikiを追った経験があるのだが 実は筆者は同作を仮編集の段階で見ていて 、そこではぴゅ~ぴるの兄さんが出てきて衣装作りを手伝ったりしていたのが途中で結婚して家を出るので手伝えなくなるというくだりがあったのが、完成作ではばっさりカットしてあった。
代わりに入ったのが性転換(というのか)手術を受ける前後の逡巡したり悩んだりするくだりで、ここで手術の保証人として監督が(本名で)サインするくだりがある。
それだけ対象に深くコミットしたドキュメンタリーで、もともと高校の同級生を追うという契機から発展したのでなければなかなかありえない作りだった。

だから今回はもっとさらに深く性的マイノリティにコミットするのかと思ったら、逆に意外なくらい初めから特別扱いしない姿勢で一貫している。

カメラワークは全編ぴったりと対象に手持ちの長回しで俳優のアクション=リアクションを丸ごと撮っていて、ちょっとジョン・カサベテスを思い出したりもした(松永監督は俳優出身)。

セックスシーンではインティマシーコーディネーターを入れて撮影したそうで、ゲイのセックスというと一定のイメージがあるのだが、ここではそうはしていない。一見して男女のそれとあまり変わらない。





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