マゾッホの「毛皮のヴィーナス」そのものではなく、その舞台劇化を上演しようとしている脚本家兼演出家とオーディションに遅刻してきた女優とのやりとりが原作=舞台の内容とだぶってくるという趣向。
マチュー・アマルリックの横顔がポランスキーその人と似ていて、実生活での妻エマニュエル・セニエが演じているのだから、仕掛けとすると三重構造になる。
劇中のSM関係と演出家と女優という位相がくるりくるりと入れ替わるあたりのスリルは練達の技という感じ。
こんなに大柄だったっけと思わせるくらいセニエの肉体的な貫禄がものを言っている。
ポランスキーの舞台劇の映画化というのは「死と乙女」「おとなのけんか」、舞台劇ではないが密室を扱った「袋小路」などがあって、限られた空間でもカメラの位置ひとつで映画以外の何物でもなくなる技巧と閉所恐怖症的な感覚を見せてきたのだが、これもやや固いながら雀百まで踊り忘れずといった感じ。
(☆☆☆★★)