prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ある過去の行方」

2016年12月28日 | 映画
オープニングで雨の中の車のワイパーが動いている画が暗くなり「Le passé」(過去)というタイトル文字をワイパーが拭う、文字通り拭い去れない過去、という図になる。

別居中の夫と妻と、妻が再婚を考えている相手の男、そしてなぜか自殺を図り植物状態にあるその妻、およびそれぞれのカップルの間の子供という小さい人間関係の間の話だが小さい分のっぴきならず濃密。

なぜ植物状態になったのか、といういきさつが回想シーンを使わず会話だけで、つまり憶測や思い込みも加わった形でジグザグに解き明かされる、というか本当のところはよくわからないままキャッチボールしながら深部に降りていくプロセスが見事。
その間植物状態になっている姿そのものは見せず、やっとラストで出てくるのがひとつの象徴的な性格を強く出した。

板挟みになっている子供たち、といっても思春期に入っているのと、まだ幼いのとでは相当に違うが、違うなりの辛さや悩み、それゆえにやってはいけないことをしてしまうことも含めて厳しく突っ込んで描かれる。
ちいさな意外性の積み重ねに各人のエゴと揺れを年齢性別によらず行き届いて描いている。

イラン出身のアスガー・ファルハディが「別離」で世界の映画賞を総なめにした後フランスで撮ったわけだが、イランとフランスという異国の断層もあるにせよそのウェイトはほどほどで、国によらない普遍的な家族内部の断層の方が同様に深刻。
(☆☆☆★★★)






12月27日(火)のつぶやき

2016年12月28日 | Weblog