prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」

2016年12月27日 | 映画
同性愛の女性カップルのうち年上で刑事がガンに侵されて余命いくばくもなくなり、家族だったら公務員としての年金を受給できるのだけれど、同性パートナーは家族とは認められないので受給を認めてもらうべく闘うという話だが、ストレートにも受け入れられるよういろいろと腐心している。脚本は「フィアデルフィア」のロン・ナイスワーナー(ゲイであることをカミングアウトしている)。

二人の愛を認めろという主張であるより、刑事として正義を守ってきた人間であることを主張した上で正義を求めるという具合に理屈で攻めてくるところ、刑事としての相棒(マイケル・シャノン)がストレートで白人だが人間としての信頼感の上に協力するという具合にストレートの人間の視座からアクセスしていること、ユダヤ人でゲイで口八丁手八丁の活動家(スティーブ・カレル)が政治的に利用しようとすることに反発しながら半身で協力するスタンスの取り方、など同性愛でない人間にも受け入れられるよう工夫している。

そして問題解決を同情や金そのものであるより(シャノンが金を渡すだけだったら簡単だ、私が結婚して遺族年金を受け取ってから改めて本来のパートナーに渡せばいい、と言うシーンあり)、法制度と委員会の採決というよりパブリックな場に持ち出すのもアメリカらしい。

もっともその割にアメリカでの受け入れられ方は好評とはいえないようで、トランプ大統領が誕生する前に作られたとはいえゲイフォビアが再燃しているらしいところにぶつかったのは不運だったのかもしれない。

原題はfreeheld。freeholdだと
「【法律, 法学】
1不可算名詞 (不動産または官職の)自由保有権 《世襲としてまたは終身権として保有できる権利; cf. copyhold 1》.
2可算名詞 自由保有不動産.」
という意味になる。

二人が共同で購入し手を入れていわば育ててきた家がこれにあたると思われ、この家をパートナーに残したいという意思が核の主張になっている。アメリカ人の家に対する思い入れというのはちょっと独特のものがあるのではないか。住宅の着工件数が大きな経済指標になる国というのはあまりない気がする。

大詰めで採決を下す郡政委員会の委員の名前のパネルをいちいち大写しするところで名前の下に「FREE HOLDER」と書いてあるのが見え、アメリカの大原則であるところのfree、自由意志の尊重を伺わせる。

製作費700万ドルの映画で出演陣はずいぶん豪華で演技者揃い。ジュリアン・ムーアの刑事らしさと同性愛者であること同居している役の表現、普段エキセントリックかおっかない役が多いマイケル・シャノンが一般人の寛容さを示す重要な役をやっていることや、同性愛者であることをカミングアウトしているエレン・ペイジがプロデューサーを兼ねていることは演技そのもの以上にひとつの主張になっている。

刑事仲間が自分の有休を仲間に分けるという描写にちょっと驚いた。そういう制度があるのだね。
同性愛絡みということで引いていた仲間たちが公聴会に集まってくる場面が感動的。感動的な場面をくどくど描かないで黙って集まってくるだけですべてわかるという作りはアメリカ映画らしい良さ。
(☆☆☆★★)

ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気 公式ホームページ

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