prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「チャイナタウン」

2011年09月08日 | 映画
私立探偵が主人公のハードボイルド物のものすごく手のかかった祖述。本物より本物らしいくらい。
ポランスキーという人は故郷をなくしている分、環境に自分を合わせることも環境の方を合わせるのにも長けているみたい。

1974年の映画というと、「スター・ウォーズ」のわずか3年前なのだね。当時はこういう懐古趣味の映画がしきりと作られていたものだが(ルーカスの「アメリカン・グラフィティ」が73年)、というか、SWも初めは昔ながらの勧善懲悪ものだと思われていたのだった。ああいうややこしい話になるとは思わずに。

フェイ・ダナウェイ当時33歳。この2年後にオスカーを獲得する(「ネットワーク」)が、あとどうも妙な顔になってきた。ここでは思い切って眉を細く描いて昔のニュアンスを出している。なんでも、ポランスキー自身の母親がああいうメイクをしていたとか。

ゴールドスミスの音楽はタイトルミュージックはいかにもけだるい雰囲気を出して、シーンの変わり目でメリハリを出すのには現代音楽の書法を使っているように思う。作曲から録音までわずか10日というのは信じられない出来。

かなりマジック・アワー狙いの撮影(DPはジョン・A・アロンゾ)が多いのに気づく。
余談だが、ときどきマジック・アワーは「天国の日々」が最初って間違えて記述されていることがあるけれど、あれだけ大々的に使われたのが最初なので、白黒時代からやってることだし、カラーでも「暗殺のオペラ」(1970 DPはヴィットリオ・ストラーロ)で使われている。インド映画「黄昏」(1981 監督アラヴィンダン 撮影シャージ)ではタイトル通り最初から最後まで黄昏時に撮っていた。

ポランスキーが手下の大男に押さえつけさせておいてジャック・ニコルソンの鼻を切るシーン、ポーランド時代の短編「タンスと二人の男」に良く似たシーン(ナイフは使わず殴るだけだが)がある。なんか体が小さいところにコンプレックスでも持っているのかと思わせる。

庭師や召使が東洋人だらけ(庭師役はジェリー・フジカワという日系人)、というのは1930年代の考証なのだろうが、それがどうタイトルのチャイナタウンに結びつくのかどうもよくわからない。オリジナル・シナリオではチャイナタウンが出てくるシーンすらないという。
というか、もともと話がよくわからないというか、一番の悪(わざわざハードボイルドの代表作「マルタの鷹」の監督であるジョン・ヒューストンを起用しているあたりもひねっている)が一向に滅びないばかりか逆に栄えるというニュアンスもなしに終わってしまうあたり、意識的にだろうけれどおよそすっきりしない。謎解きそのものより文体を味わう作り。

続編「黄昏のチャイナタウン」が作られているが、ロバート・タウンの元の構想だと三部作だったそうな。

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