prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「赤い月」

2004年02月25日 | 映画
ほとんど全編、色彩を抑えた半ばモノクロのような画面だが、タルコフスキー作品で見るような玄妙な感じはなく、何だかカラーテレビの“色の濃さ”を一番薄くしたみたいなフラットな 画調。ドキュメンタリー調でもなく、ノスタルジックなわけでもなく、狙いが良くわからない。木村大作が以前「鉄道員(ぽっぽや)」で試みていたデジタル処理による色抜きの延長かもしれないが、全編それで通すとなると、京劇や真っ赤な衣装をつけたヒロインまで色を殺しているわけで、中国の風土感や素材のスケールを削いでいる観が強い。
部分的に雄大な夕焼けや春の花畑などがくっきりとしたカラーで描かれるが、そのために他を全面的に抑えるほど効いていない。テレビで放映する時は調節するかもしれない。

上下ニ巻にわたる長大な原作をまとめたせいか(未読)、展開が駆け足的で各シーンにあまり膨らみがない。ほぼ全編ヒロインの視点でまとめてあるのに、恋仇のロシア人家庭教師の死に至る経緯の部分で視点が混乱していて、それにヒロインがどう関わっていたのかというのが説明的にしか描かれないのは困りもの。それがわかっていて見るのとわからないでいるのとでは、ヒロインのあり方が全然違ってくるのだから。

男たちがやたら死にたがって、ヒロインが決して生き抜くのをやめようとしないコントラストは(そうだよなあ)と思わせる。中国のおそらく大々的な協力のもとに作られたにしては、中国人の登場人物がとんと姿を見せない。

ソ連政府に迫害されてきたギリシャ正教徒の父親を持つソ連のスパイが死ぬ前に介錯人に十字架を渡すというのは、ソ連政府の雇い人ではなくロシア人として死ぬというのでなくては意味が通じないが、台詞はそうなっていない。

タイトルの人名が、おそらく各スタッフ・キャストの直筆というのはいい。一度中断してまた完成にまでこぎつけた、製作に注ぎ込まれたひとりひとりの体温が感じ取れる気がする。ただ、それが内容にまで至っていないのだから怖い。どういうわけかロシア人の名前が、姓が先で名前が後になっていた。
(☆☆)


本ホームペー