駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『うたかたの恋/Amour de 99!!』

2013年07月29日 | 観劇記/タイトルあ行
 全国ツアー公演、上野学園ホール2013年7月24日マチネ、北九州ソレイユホール7月26日マチネ、福岡市民会館7月27日マチネ。

 1889年1月26日、ウィーンにあるドイツ大使館では皇帝一家臨席のもと舞踏会が催されていた。皇太子ルドルフ(凰稀かなめ)が男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ(実咲凛音)の手を取り踊り出す。人々の視線を一身に集め、幸せそのもののように踊るふたりは、このときすでにねうたかたの恋に終止符を打つある決意を固めていたのだった…
 原作/クロード・アネ、脚本/柴田侑宏、演出/中村暁、作曲・編曲/吉田優子、高橋城、寺田瀧雄。1983年雪組での初演以来8度目の再演。

 なんと私どうも初めての生『うたかた』だったようです。
 確か私が宝塚歌劇を観始めたときに初めての再演が決まって、当時シメさんが再演を熱望していた作品で、でもお稽古で怪我をして大劇場公演はマリコの代役公演になって…というニュースに湧いていたころでした。この東京公演にはシメさんは復帰したのだけれど、これがどうもチケットが取れなかった模様。
 その後、マミダンあたりで観ていた気がしていたのですが、プログラムが出てこないので、私は映像で見た気になっていただけだったのか…!ということが判明しました(^^;)。
 ちなみにウイーンでバレエ『マイヤーリンク』は観ています、簡単ですが感想はこちら。東宝ミュージカルの『ルドルフ』の感想はこちら

 というわけで『エリザベート』などの知識もあり、だいたいの史実とお話の流れは知っている、程度で観ました。
 全ツ版になっていることもあり、盆などが使えないせいかセットチェンジのための幕前芝居が多く、今観ると場数が多くて細切れの印象が否めず、やや古さを感じなくもなかったです。
 でも好きだなあ、ゆかしいなあ。そしてとてもテルのニンに合ったキャラクターだと思いました。本人はナウオンなんかで苦手そうな発言をしてしまいましたが、似合いそうだからこそ、はまりそうだからこそ、嫌なんだろうなあ、とニヤニヤしたものです。
 本人はもっと、似合いそうもないものに無理やりチャレンジするのが好きな、役者魂があるタイプなんでしょうが、ニンを生かすことも大事だと思いますよ。そして何より美しさは正義!ということです。
 どんなに丁寧に描いても、心中という結論を選ぶルドルフはエゴイストにもわがままにも自分勝手にも軟弱にもヘタレにも見える危険性のあるキャラクターだと思います。でも、仕方ないよ、つらかったんだもん、仕方ないよ、この世で愛をまっとうできなかったんだもん、愛こそがすべてなんだもん、と観客に納得させられるだけの美しさがあれば、成立させられる物語なのです。
 人はそういう美しさに、愛のはかなさに、酔いたいものなのです。それを十全に満足させてくれる数少ない装置が宝塚歌劇なのだと私は思う。だから100年続いてきたのだし、これからも劇的に世の中が良くならない限り、そう簡単に廃れないだろう、と私は思います。もちろん劇団側が観客のこうした要望を掬えなくなったときにはその限りではないのですがね…

 というわけで、気になったのは台詞いくつかだけ。
 夢でジャン(朝夏まなと)とミリー(すみれ乃例)に会って、ミリーに船出を誘われたときに、「それにはあなたのような恋人が必要です」みたいな返事をするとき、「私にも」あなたのような恋人が、と足したい、と思いました。
 ヨゼフ皇帝(悠未ひろ)と口論になったとき、中座しかかるルドルフに対し「まだ終わっていない!」と皇帝が怒鳴りますが、「話は」また終わっていない、と足したい、と思いました。それくらいかな。他にはわかりにくいとか改善したいとかは思わなかった。ただもう少しキャラクターの名前を呼び合わせるとわかりやすいのと、「皇太子妃」という言葉は「ひ」が聞こえづらくて意味が取りづらいので、上手く「妃殿下」という言葉と両用したい、と思ったくらいかな。

 なので、主に役者の感想を。
 そんなわけでテルは甘く優しく真面目ででも不器用な青年王子(いやホントは分別盛りの中年男なんだけど)をたいそう好演していたと思います。『リラ壁』にもあった必殺技の「あなたは可愛い」も出ましたしね!
 劇場ロビーで妻のステファニー(怜美うらら)にバッタリ会ったときの表情もたまりませんでした。他のことは上手く交わしたりあしらったりできる、苦労しながらもそれなりに流したり上手くやりくりしてきたりしているのに、妻の相手だけは上手くできない。引け目を感じているし、申し訳ないとも思っているのだろうけれど、好きになれない、苦手であるという意識が隠しきれず、おたおたしてしまう感じが、すっごくそれらしくてよかったです。
 マリーとも、最初は綺麗なお嬢さんだな、と思った程度で私室に呼び寄せたのだと思います。そうして何人もに幻滅してきた。でも初めて、遠くで見ていたときと同じくらい近くで見ても心惹かれる相手に出会った。若く美しいだけでなく、才知ある受け答えをし、こちらの孤独を見抜き、優しい気遣いを示してくれた。
 ファースト・コンタクトは容姿に対する一目惚れみたいなものでも、このセカンド・コンタクトで改めて恋がスタートしたのですね。こういう描写がとても丁寧で、心が通い恋が生まれそれに溺れ喜びに輝く様子がきちんと描かれていて、観客も素直に酔えるし納得できるのです。この恋は美しい、愛は素晴らしい、まっとうさせてあげたい、と思えるのです。
 従兄弟であり親友であり、その政治思想に理解を示しつつも政治運動としては皇太子の立場もあって共闘はできないジャンに、おずおずとテレつつ恋をしていることを明かすくだりなんかも、とてもいい。ここでまた素直に驚くジャンがいいんだよねー。
 こんな理解者にも恵まれていたのに。なのに、フェルディナント(愛月ひかる)を担ぎ出して実験を握ろうとする官房長官(緒月遠麻)の策謀に陥れられていく。それに加担するツェヴェッカ伯爵夫人(大海亜呼)はかつての愛人であり、そこには嫉妬も絡むわけです。ルドルフにとっては遊びでも、彼女にとってはそうではなかったのですよ…この因果は巡る感じも素晴らしい。
 マリーがエリザベート(美穂圭子)と鉢合わせしてしまったあとに心配して駆け込んでくる様子もせつない。母親は今まで息子の愛人に対しいい顔をしてこなかったのだろうし、自分との関係もぎくしゃくしていることもあって、マリーがエリザベートにいじめられたり頬でもはたかれたんじゃないかと思ってたんだよね。でもそんなことはなかった。エリザベートへの敬愛を語るマリーに対して、ほっとしたような安心と新たな情愛の表情を浮かべるルドルフがいじらしいこと…!
 母親とは和解できたかもしれない。けれど父親とは決定的に決裂する。皇帝にとっても、よもやルドルフが皇太子の地位を辞してもいいとまで言い出すとは思ってもいなかったのでしょう、口論の際には裏切られたというようななんともショックな、これまたせつない顔を浮かべます。でもルドルフにはもう他に選択肢がない。ただ皇帝の決定に従うだけの皇太子なら、自分らしい政務ができないのならば、そんなことはやっていても仕方がないのです。心離れた妻との離婚ひとつ自由にできない、そんな地位などもうごめんなのでした。
 けれとそれも受け入れられず、マリーの人生まで奪うと言われたなら、それこそ他にもう選択肢はないのでした。この世のどこにもふたりで生きられる道はない、ならば帰らない旅に出るしかない…
 納得の、王子像なのでした。

 そしてみりおんマリー、素晴らしかったです。
 本来彼女はもっと色濃い役も上手い、非常に実力派の娘役だと思いますが(何故この先スカーレットやアントワネットをやらせないのか、まったく意味がわかりません)、無垢で純真で明るくて朗らかで青春の輝きに満ちた若く美しい娘さん、という役どころを決してカマトトに見えることなく演じてみせて、完璧だったと思います。
 この役は、エリザベートが、そして皇帝が、一目でその魅力を認める、清冽な美しさを表現してみせなければならないのです。馴染みのツェヴェッカにも、物慣れたラリッシュ伯爵夫人(花里まな)にもない、でも若いだけではない美しさ。愚かではないが賢しらでもない、まっすぐなすこやさか。そうしたものを立派に体現してみせました。これはなかなかできないと思う!
 手紙の歌の愛らしいこと! デイドレスに包まれたはちきれんばかりの胸の素晴らしいこと!
 ステファニーに詰め寄られたときの、怯えるでもなく、哀れむのでもなく、勝ち誇るのでもなく、謝罪するのでもなく、むしろ何かしら共感するような、誠意に溢れた表情…素晴らしい。
 17歳の初恋ってこういうものだと思います。周りなんか見えない、相手のことしか見えない。愛する人が帰らぬ旅に出ると言えば、どこへだろうと一緒に行くのです。そこになんの恐れもとまどいも迷いもないのです。
 こんなことはこんな時期にしかできない。そんな時期を遠く過ぎ去った私たちにはもはやできないことです。だからこそ私たちは彼女の生き様に共感し、泣くのです。花の如く萌え出でて、花の如く散りぬ…

 ジャンのまぁくんもその明るさ、朗らかさがとても良かったです。ステファニーと無理やり踊るところも素敵でした。
 ステファニーのゆうりちゃんもその美貌が役にぴったり。マリーを睨みつけて、それでも手を上げる出なく声をかけるでなく、ただ無視することにして立ち去った、そのプライドの高さに泣きました。
 元女優の愛人を連れ歩いちゃってまだまだ色気たっぷりな肯定のともちんも、息子との口論では動揺するさまが見られて良かったです。ラストのカゲソロがともちんなのも素敵でした。皇帝だって愛に理解がなかったわけではないのですよ…と思えました、泣けました。
 キタさんの黒くシャープな悪役も良かったわ。
 のほほんとしたママのかなりちゃん、妹の栄光に酔う可愛い姉娘のエビちゃんもよかった。笑顔がまーちゃんに似て見える、ラストのカゲソロをオーディションで勝ち取った小春乃さよちゃんは意外に背が高くて大人っぽく母性的な雰囲気もあって、ハラック夫人役が良かったです。
 すっしぃさんのロシェックはさすが。ブラッドフィッシュは和希そらで見たかったかなあ、クライスの台詞がとても良かった。てんれーのモーリスもいい仕事していたなあ。
 下級生まで役がついていてバイトもしていて、顔がたくさん覚えられて楽しい公演でもありました。


 ショーは全ツ版ということでいろいろ変わった部分もありましたが、これでもか!という盛りだくさん感はそのままで、あわあわしているうちに終わる楽しさでした。
 客席下りもたくさんあって楽しかったです。
 本公演だとわりとせーたらというのをよく見ますが、今回はエツせーが多かった。てか人数の問題かもしれませんがエツ姉が歌ナシですがパレードでセンターひとり下り、ちょっと感動しました。されでいうとすしあゆのセンター下りも感動したけど(^^;)。
 そのすっしぃさんとシンメになることも多かったひかるんですが、もうひと押し出してきてほしかったなー。期待しています。
 チョンパにどよめきパイナップルの女王にどよめきパレードの大羽根とナイアガラバッサーにどよめく、楽しい公演でした。






コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『名作シネマとオーケストラ... | トップ | 『二都物語』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルあ行」カテゴリの最新記事