駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

高瀬隼子 『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)

2023年08月31日 | 乱読記/書名あ行
 職場でそこそこ上手くやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない人間関係を、食べものを通して描く、最高に不穏な傑作職場小説。第167回芥川賞受賞作。

 ほぼホラーでした。
 小説のジャンルっていろいろあるけれど、これはいわゆるお仕事小説ではありません。確かに職場小説なの、それも怖い。そしてタイトルにごはんとあるし料理も食事も出てくるけれど、グルメ小説ではない。食べもの小説、とは言えるかもしれない。でも登場人物たちは誰もあまり幸せな食事も調理もしていない。そこが怖い。
 さらにオチが怖い…転勤を機に別れればいいじゃん、なんでつきあい続けるの? なんで結婚とか視野に入れちゃってるの? こういう男がいるから、今の日本から不幸な結婚がなくならないんだよ、と心底思います…ホント怖い。『こっち向いてよ向井くん』より怖い。
 結婚はしたい人、向いている人だけがきちんと完遂する意志を持ってするべきです、本当に。なんとなく、とか周りに言われて、とかみんなしてるから、とかホントやめてほしい。誰も幸せにしません、当人含めて。
 食の好みとかが近くないと結婚とか共同生活はつらいかも、みたいなことはよく言われるものですが、本当にそうですよね。好き嫌いも、アレルギーも、興味やこだわりの有無も人それぞれですが、人はみんな食べないと死ぬので、生命とか人生とかに直結している問題なわけです。そんな問題で歩み寄れないなら他はまして推して知るべし、じゃないですか…何故なんだ二谷、おまえはまあまあ賢い人間ではないのか、何故そこまで自分というものがないのだ、そしてこういう人間はどうして男性にいがちなんだ…闇すぎます。

 毎年、芥川賞と直木賞受賞作のうち、興味が惹かれたものは読むようにしていますが、芥川賞受賞作って、観念的すぎて哲学的にはおもしろくても小説としてはハテ…みたいなものが多いような気もします。が、これはフツーにおもしろかったです。そこも怖い。装丁がカワイイ、それも怖い。
 オススメです。





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