駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

高森朝雄・ちばてつや『あしたのジョー』

2020年10月16日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名た行
 講談社漫画文庫全12巻。

 ある日ふらりと下町のドヤ街に現れた、天涯孤独な少年・矢吹丈。腕っ節の強さが元ボクシングジム会長の飲んだくれオヤジ・丹下段平の目にとまる。ボクサーを育てることに生涯をかける段平は、夢の実現を託そうとするが、丈は詐欺窃盗事件を引き起こして少年院へ送致されてしまう。だがそこには、生涯のライバルとなる力石がいた…

 『漫勉neo』の第一回ゲストがちばてつやだったので、そういえばこれまた長く愛蔵しているのに感想をまとめていなかった気がする…と再読してみました。
 私はリアルタイム読者ではなくて、でも学童保育の図書室で少年マガジンコミックスで読んでいるはずです。この文庫は大人になってから買い揃えました。
 梶原一騎の原作まんまなんだろうなと思われるやたら詩的だったり哲学的だったりするネームがあったり、かと思えばちばてつやが自由に展開させたんだろうなと思われるターンや描写があったりする、それが渾然一体となって不朽の名作となっている一作だと思います。
 あまりにも有名なラストシーンについては、あれは死の描写ではなくて、やり遂げて満足したという心象風景の描写なのだ…というようなことを『漫勉』で浦沢直樹は言っていましたが、正直どっちでもいいな、というかフツーに死でいいやろ、と思っています。あのあと廃人として残りの一生を終えようが、回復して再びチャンピオンに挑もうが、ボクシングはやめて一般人になろうが、死んだままであろうが、それはすべてのちの話であって、物語としてはあのラストシーンで終わり、あれしかなかった、というのが正解なんだと思います。
 私は葉子さんファンなので(陽子、や洋子、でないところも好き)、そのラブストーリーとしても愛しています。イヤそんな甘いものではなくて、確かにほとんどトートツにラストに告白がぶっ込まれただけであり、丈もずっと意識していたことは確かなんだけれど恋と呼べるほどの域にいたっていないもっとモヤモヤした感情のままで、でも紀ちゃんをスルーしたのともまた違うし、最後にグローブを渡したことも事実なわけで…その淡さ、複雑さ、重さも含めて傑作だと思っています。男だ女だ言われる台詞も、まあ時代でもあるし、実際拳で殴り合うスポーツなんてそら性差が最も強く出るもののひとつだろうので、そこに口出しなんかしません。今で言う悪役令嬢みたいなこういう女性キャラクターが、こういう少年漫画のこういうヒロイン位置に置かれたことは当時ほぼなかったと思うので、その斬新さとおもしろさにも打たれます。
 ちょっと話がズレますが、今読むとカーロスとロバートのイケメンふたりがやたらイチャイチャして見えてやたらセクシーで、イヤまったくそんな意図はなかったんだろうし薄い本が作られるには時代が早かった案件なんだろうけれど、この色気はなんなんだ…と震えました。ところでその後ロバートはどうしたのでしょうね…さびしいわ。
 連載開始当初からがっちり全体の構想が見えていたわけでもなさそうに思えるところ、それでも変に迷走しすぎることもなく綺麗に走り抜けまとまっているところ、も素晴らしいと思っています。最終回はもう4ページ、せめてあと2ページあるとよかったかもしれない、とは思いますけれどね…でも、大事に愛蔵していきたい一作です。


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『銀河鉄道の父』

2020年10月16日 | 観劇記/タイトルか行
 新国立劇場、2020年10月15日19時(初日)。

 物語は政次郎(的場浩司)の葬儀のシーンから始まる。愛妻イチ(大空ゆうひ)、末っ子で家を継いだ清六(栗山航)に見送られた政次郞は、「はざまの停車場」で賢治(田中俊介)と出会い、人生を振り返る…
 原作/門井慶喜、脚本/詩森ろば、演出/青木豪。直木賞受賞作を家族の会話劇として舞台化。全1幕。

 抽象的なセット(美術/杉山至)が印象的な舞台で、それを存分に生かしてくるくるパタパタ話が進む印象の作品でした。ちょっと緩急なく感じられたかなー、初日だからかなー。私は原作小説は昔ハードカバーで読んだ記憶がありますがあまり印象に残っていなくて、「ああ、そうだったそうだった」とか思いながら楽しく観ましたが、ちょっと焦点のないお話に思えたかもしれません。天才の父、というよりは、この時代にしては珍しく息子に甘かった父親と、なんらかの才能はあったのかもしれないけれどワガママ勝手なフラフラふわふわした息子…がテーマ、ではあるのでしょうが、そしてほろほろ笑いも沸いてましたが、作品として温まるのはこれから、なのかなあ?
 賢治の妹トシは乃木坂46の鈴木絢音。舞台もいろいろやっている人だそうで、可愛くて達者でした。でも子供チームだと弟役がよかったかなあ。要所を押さえているように見えました。
 大空さんは、普通のお母さん、な役どころ、かな? この時代の、地方の、やや裕福なところの奥さんでお母さん。夫や夫の姉や子供たちを愛し気遣い、普通にオタオタおろおろパタパタしている可愛い「おがさ」でした。すごーく上品とか、どーんと肝っ玉が据わっている、とかはない。本当に普通で、でもキュートでした。なんでも上手いなあ。プログラムやポスターなどの宣伝ビジュアルははんなり美人でとても素敵で、もっと若い役でももっと老けた役でもなんでもできる、女優さんとしていい年代になってきたなとファン目線ながら思います。先日のイギリスのお屋敷の女中頭とは全然違ったのもまたおもしろかったです。今後も楽しみです。
 客席はまだ市松模様でしたが、男性客が多く、宮澤賢治ファンなのかなあとか思ったりしました。私は結局どれもちゃんと読んだことがないかもしれません…
 盛岡弁、役者としてはイントネーションその他いろいろ大変だったでしょうが、ワケわからんみたいなこともなく、耳に優しくほっこりしました。
 ラストの汽笛が印象的で、ちょうど『劇場版 銀河鉄道999』のテレビ放送を見たところだったりもしたので(笑)、鉄道ってロマンだよなあ、としみじみしました。良き演目に進化していきますように!

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