駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

朗読劇『日の名残り』

2020年10月01日 | 観劇記/タイトルは行
 あうるすぽっと、2020年9月30日19時(初日)。

 混獲ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンス(真島秀和)は、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら、さまざまな思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿(マキノノゾミ)への敬慕、執事の鑑だった亡父(マキノノゾミ)、女中頭(この日は大空ゆうひ)への淡い想い、ふたつの大戦の間に廷内で催された重要な外交会議の数々…失われつつある伝統的な英国を描きブッカー賞を受賞した、ノーベル文学賞作家の代表作の舞台化。
 原作/カズオ・イシグロ、訳/土屋政雄、上演台本・演出/村井雄。全2幕。

 他にファラディほか十何役もを演じるラサール石井がダブルキャストでいる、役者4人の朗読劇で、役者は基本的に椅子に座って台本を手に台詞をしゃべります。でもときどき立ち上がるのが効果的で、全体としてはスティーブンスのひとり語りなのですが、立派な台詞劇に感じました。照明(杉本公亮)が効果的、開演前や幕間の音楽も雰囲気がありました。
 原作小説は昔読んで、いいなと思った記憶があって、でも細かいところはすっかり忘れていたので、楽しく観ました。『ダウントン・アビー』なんかの世界だよな、とも思いました。それからすると、やはりスティーブンスさんの素直じゃなさはやはりアレですよね…そして彼がジョークを身につけることはおそらくこの先もないのではないかしらん。でもファラディさんはいいご主人だと思うんですよね、スティーブンスさんが執事人生を幸せにまっとうできることを祈ります。
 ミス・ケントンというかミセス・ベンの大空さんは黒のツーピースに黒のレースのボレロ、白の椿のコサージュでシックな装い。前髪があって、髪は首の後ろの片側で結ったかまとめていたのかな? 出番はそう多くはないのだけれど、例のいい声で、しっとり、しっかり、揺れる女心も垣間見せて、いい老いも諦観もにじませて、美しく、麗しかったです。満足しました。
 私は子供の頃に西向きの家で育ち、今も南西向きのマンションに暮らしているので西日には思うところがありますし、好きですね。でもまだ黄昏れの年代だと自分のことを思っていないところはある(笑)。さすがにまだ孫がいるような歳じゃないしね。でもいずれ、一日のうちで夕暮れの時が一番いい、夕陽が沁みる…という心境のときが来るのかもしれません。それは楽しみでもあります。
 日記とかひとり語りって、当人の都合のいいように記憶や記述を捏造していたりするものですよね。それもまた味わい深いし、語られ書かれたものがその人にとっての人生なのです。私もまたゆっくり、楽しく、豊かに、そしてなるべく後悔は少なく、老いていきたいものだ…と思ったり、しました。わびしいとかつらいとか寂しい、とかはない、いい舞台でした。

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