駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇月組『出島小宇宙戦争』

2020年02月12日 | 観劇記/タイトルた行
 シアター・ドラマシティ、2020年2月8日15時(初日)。

 宇宙の真反対、地球によく似た星のよく似た国で、よく似た歴史を紡いできた人々が、パラレルワールドの出島で繰り広げる物語。江戸の町は、長崎の出島に外国人に混じって宇宙人が忍び込んでいるという噂で持ちきりである。事態を無視できなくなった幕府は、宇宙研究の第一人者であるカゲヤス(鳳月杏)に出島への潜入捜査を命じる。元は幕府の天文方であったカゲヤスは、宇宙に夢中になるあまり公儀の金を使い込み、幕府禁制の品々を外国から密かに仕入れていた罪で捕らえられていたのだ。乗り気ではないカゲヤスだったが、宇宙人の狙いが自分が隠し持つ師匠タダタカ(光月るう)の日本地図だと聞き、兄弟子のリンゾウ(暁千星)とともに一役買うことにする。タダタカの地図は日本の正確な海岸線を描いたもので、リンゾウが測量した蝦夷地を書き加えれば日本地図として完成する。もしもこの地図が外国の、ましてや宇宙人の手に落ちることになれば、外敵の侵略は免れない。カゲヤスとリンゾウは出島へ急ぐが、彼らを待っていたのは、町全体が奇妙な幻想未来都市へと変貌していた光景だった。人々の熱狂的な支持を得ていたのは、瀕死の病人を魔法のように救う西洋人・シーボルト(風間柚乃)だった…
 作・演出/谷貴矢、作曲・編曲/太田健、高橋恵。奇想天外なデジタル・マジカル・ミュージカル、全2幕。

 タカヤ先生の前作の感想はこちら、デビュー作の感想はこちら
 SF者として、人間とか科学とか世界とか未来に対する先生の考え方やセンスが私は好きです。今回のザッツ・サイバーパンクなセット(装置/國包洋子)といい、先生の萌えやロマンの在り方も実にわかりやすい。ただこのままでは大劇場デビューはつらいと私は考えていて、その点は心配しています。ニッチな好みやツボは主にスターのファンが観に来る別箱でしか通じないもので、大劇場でやるならもっと大きな意味でのロマンチックさと、何より確固たるロマンスが必要だと思うからです。そのチャレンジは、次回以降ぜひがんばってみていただきたいです。
 今回の作品は、演目発表時はそのタイトルと公演概要だけでファン界隈をざわつかせたものでしたが(笑)、私は『はいからさんがこけた』を思い起こしました。あれは太陽を真ん中にして地球と反対側にあるもうひとつの地球に、紅緒さんがワープしてしまう番外編でした。その地球にも少尉や編集長などみんないるんだけど、みんなちょっとずつ違っていて…という設定です。今回は、まあ宇宙の反対側云々は特に説明されていなくて、またどうでもよくて、パラレルワールドというかなんちゃって幕末時代のお話、というんで十分だったかと思います。
 前日に星組大劇場公演の初日を観ていたこともあって、二日続けてオリジナル新作を観ることになったので「どうなるんだろう?」と興味深くおもしろく観ました。これも、予想がつかず展開が読めずオチが簡単には想像つかず、楽しく見守れましたし、おもしろく見終えました。ただ、ちょっとロマンスとドラマが弱かったかなーとは思います。でも、素敵な作品でした。

 ちなっちゃんが持つと望遠鏡もバズーカ砲に見える…などと先行画像やポスターで言われていましたが、本当に撃っとるやないかーい!という衝撃の登場シーンでしたね(笑)。パンクでロックな謎の和装が似合うのは素敵。そして本当に声がいい。ちなみに開演アナウンスのあっかるい声音もかなり印象的でした。
 ただ、カゲヤスって、まあ宝塚歌劇の主人公像ではありがちなんだけれどわりと受け身のキャラというか、周りがバタバタ騒いでいるだけで真ん中はわりとただ白くたたずむのみ、みたいなことが多いんですけれど今回もそのパターンで、意外にしどころがなさそうにも見えました。回想シーンが多いこともあって、実際の芝居をするのはるうちゃんだったり若かりしカゲヤス(蘭尚樹)のまおまおだったりして、ちなっちゃんはただそれを眺めているだけのときも多いように感じたんですよね。
 カゲヤスは師匠のタダタカを死なせてしまったことにものすごく責任を感じていて、だから幕府の命じた蟄居閉門に甘んじて従っているところがあるんだと思います。そんな彼が、ずっと会いたいと思っていた師匠の想い人と出会ったりリンゾウと和解したりなんたりを乗り越えて、再び天文学者としてやる気を出ししっかり人生を歩み出すまでの物語…という位置づけをもっとしっかりしないと、観客は観ていて「ところでこれってなんの話? 何がゴールになる話?」って不安になっちゃうと思うので、そこはもう少し親切に枠組を作ってあげればいいのにな、と思いました。だって、月に帰っちゃうかぐや姫とのせつないラブストーリー!とかでは全然ないからさ。わかりにくい、とらえづらい。
 そう、なので物語のヒロインはどちらかと言うとるうちゃんタダタカになっちゃってるんですよね、だって主役も2番手も師匠のことが大好きで、師匠の死の真相を巡って対立してるんだもん。そこにドラマができている構造になっちゃっている。なんせヒロインのはずのタキ/カグヤ(海乃美月)もタダタカの恋人です。カゲヤスにとってカグヤは父親のところにいた遊女で師匠の恋人、なんですもん。そりゃ笑顔がいいからってすぐラブ!とはなりませんよね。もちろんそれが月からのスパイだとわかって、地球人としては対立せざるをえず…ってドラマも生まれるわけですが、なんにせよ恋愛、ロマンスは生まれにくい構造に、ここもなってしまっているんです。ラブストーリーとして歪であることは、宝塚歌劇の作品としては弱いのです。だからこのまんまのノリでは大劇場は無理だぞタカヤ?と言いたいわけです(ホント上からですみません)。
 ただ、くらげちゃんはとてもよかった! 私は彼女はずっと地味で華がなく見えて苦手で、ちゃぴの時代から万全の2番手娘役でしたがそれでも次期にさくさくが決まって大喜びでしたし当然だと思いました。それでもバウヒロインをやるのか、と思ったし、『アンカレ』も上手いとは思ったけれどやはり私には地味で、どうも好きじゃない…と感じました。でも『IAFA』のロミーはとてもいいと思いましたし、卒業しちゃわないでくれてありがとうと思いました。そこからさらに好感度アップ!の今回でした。上手い! 可愛い! 綺麗! こういうすっとんきょうでミステリアスな役を嫌味なくてらいなくやれる確固たる技術がある、そして味がある! かつ華が出てきた!! 本当は主人公とがっつりロマンスを演じてほしかったのに、タダタカへの想いを募らせたりするさまにキュンキュンしちゃいました。かつてまさおが愛用したような高速セリでシュッといなくなるのもせつなかったわ…! ホント毎度偉そうな言い方で申し訳ありませんが、一皮剥けたというか確変した気がしました。娘役力が発揮されてきたよね…! ただトップの座はホント、タイミングと運と相手役との相性次第だからさ…たとえその座が巡ってこなくとも、大きな花をこれからも咲かせていってほしいと思います。
 ありちゃんリンゾウはカゲヤスの兄弟子ですが、ふたりの演技の質というかスターとしてのタイプの違いのせいでちゃんと兄弟子に見えていたのがよかったです。実は…というところがある役なのもよかったし、大ナンバーもよかった。でもありちゃんならもっとできるはず、とも思えちゃったかなー。あと「隠密」って変じゃない? どうしても誰か雇い主がいて、その人の命で潜入捜査しているような印象が出ちゃうと思うんだけど、どうもそういうことではないっぽいですよね? これからも天文学者を隠れ蓑にして、幕府の政や世の成り行きを見届けていく…というようなことを言いたいのかな?とは思ったのですが…
 ところでそもそもの話ですが、我々現代人にとっては地図ってあってあたりまえのもので珍しいものでも貴重なものでもないんだけれど、最初に地図ができるまでは手間暇かかったり測量や天体観測の高度な技術が必要で大変なことだったんだし、外国の手に渡って悪用されたら地形の研究とかされてここが攻めやすいとかバレて下手したら侵略されちゃうから危険なのだ…ということはもっと強調しておかないと、地図を巡ってみんながあーだこーだする意味がピンとこなくてなんだかなー、となるかなと思いました。
 さて、大ナンバーと言えば「ココマジデジマ」と歌ってのけるおだちんシーボルトも絶妙でした。てかネモ船長のお衣装着せてピアノ弾かせたのわざとでしょタカヤ! イヤ実際に日本にピアノを持ち込んだのはシーボルトだそうですがしかし!! 腹筋にキタわー。宇宙人の振りをして出島の人々を煽動している西洋人…ということで、そのうさんくささが存分に出せていました。上手い!
 あとヘレーネ(蘭世惠翔)が絶品だった! アンドロイドだ、みたいな台詞がありましたっけ? とにかくスゴツヨででもメイド服、という趣味全開さがたまらないし、娘役に転向したばかりでまだまだ濃くてポジション迷走してるよ!?な蘭世ちゃんにすごく似合いのお役でした。あとあと、アルテミス菜々野ありとセレネ詩ちづるも大正解! ことにセレネはすらりと背が高く脚が細くてたまらん!! かーわーいーいー!!!
 ツクヨミ(梨花ますみ)の異物感もさすがの配役でした。
 そしてゆりちゃんタダアキラ(紫門ゆりや)もよかった。将軍家の老中で、公務員代表というか一般良識人代表というかなお役で、その意味をちゃんと体現してみせていました。
 その部下のヌイノスケ(英かおと)うーちゃんがまた良くて、仰天しました。まず、刑事のコンビとか、よくあるタイプの単なる部下かと思っていたら実は…というキャラクターなのもよかったし、それをすごく上手くやってのけていました。これまで新公や別箱でもちょいちょい大きく起用されているのに前に出てこないなあ地味だなあと思っていて、『IAFA』新公主演もやはりちょっと地味だったかなあと思っていたのですが、その経験がついに生きたか、ぐっと押し出しが良くなってきた気がしました。成長する時期なんだなあ。
 さちか、ぐっさん、ヤスに江戸と出島の町民代表みたいな狂言回しとコント(笑)を任せるのも、上手い。手堅い。さすがすぎて唸りました。
 シーボルトの助手かな?チョウエイ(彩音星凪)もいい案配でした。ホント顔がいい、でもおもろい。大事。
 あとはギリギリがやはり上手くて、フィナーレ群舞でも垢抜けていて目立っていて仰天しました。

 そう、フィナーレがまた絶品でしたよね! まず娘役群舞から始まるというのが素晴らしい。くらげちゃんが背中向けてて、振り向いて、ライト、拍手!ってできるのも最高でした。月縛りの音楽ってのはありがちだけれど、童謡を持ってきたのがまたいい。かりにも日本物ですからね! くらげちゃんのスカートさばきの美しさ、翻る裾が描く美しい弧に見惚れました。
 デュエットダンスはアイスダンスみたいなアクロバティックなリフトもあって、素敵でした。ただ装置が置かれたままでちょっと狭そうだったかなー。ホリゾントだけの大きな舞台で踊らせてみたいふたりでした。
 男役が出てきてもくらげちゃんがしばらく残っていたのもよかったです。で、男役群舞もカッコいい。からの、ちなつ、ありちゃん、おだちんが残るのも素敵。さらに、からのちなつのソロが長くてセクシーで照明も粋で、絶品でした。手の使い方が色っぽくていい! あえてバックライトにしてシルエットを見せてキメ!みたいなのもイイ!! すごいなあ、愛されてるなあ、スタッフにこう作りたいと思わせられるスターさんになったんだなあ、おかえりちなつ!と改めて感動しました。
 初日カテコのご挨拶もそれはそれはりっぱで的確でチャーミングで、素晴らしかったです。
 芝居はどんどん深まってなめらかになって、もっとぐっと緩急ついておもしろくなっていくんだろうなあ。東京で観る予定がなくて残念です。盤石の月組、名古屋チームも楽しみです!




コメント (2)
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