駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『メアリー・ステュアート』

2015年06月27日 | 観劇記/タイトルま行
 パルコ劇場、2015年6月26日ソワレ。

 生後6日にしてスコットランド女王に即位したメアリー・ステュアート(中谷美紀)はフランスで育ち、フランス皇太子フランソワ(のちのフランソワ2世)と結婚するも、フランソワ2世が若くして亡くなるとスコットランドに帰国し、やがてはイングランドに亡命する。一方イングランド王ヘンリー8世とアン・ブーリンとの間に生まれたエリザベス(神野三鈴)は異母弟、異母姉のあとについにエリザベス1世として即位する。結婚して王位を与える価値のある男などいないと考える彼女はヴァージン・クイーンとして生きることを選ぶ。やがて彼女は、亡命してきた従妹メアリー・ステュアートの処遇について決断を迫られる…
 作/ダーチャ・マライーニ、訳/望月紀子、演出/マックス・ウェブスター、セットデザイン/ジュリア・ハンセン、衣装デザイン/ワダエミ。シラーの同名の戯曲の自由な翻案として1980年に書かれ、1990年日本初演、今回が四演目。全1幕。

 リュート奏者(久野幹史/笠原雅仁)がいる他は女優がふたりだけで出ずっぱりの、完全なるがっつりふたり芝居でした。途中にほんの少しインターバルがある他はノンストップの100分。
 ふたりの女優はメアリーとその乳母ケネディ、エリザベスとその侍女ナニーをほぼ交互にかつめまぐるしく演じます。その鮮やかなことと言ったら! 役者ってすごい。
 ふたりの女優はほぼ同じデザインのドレスを着ていて、神野三鈴の飾りが金で中谷美紀の飾りは銀。中谷美紀の左腕だけ袖がありませんでしたが、あれは若さを表しているのかな…完全にお揃いでもよかったかもしれませんが。ともあれ素敵でした。舞台奥に傾いた鏡を置いたごく簡素なセットも素敵。
 しかしこの作品は何故『メアリー・ステュアート』というタイトルなのでしょう? たとえば『エリザベスとメアリー』というようなタイトルでは何故いけなかったのでしょう? それくらいこの作品は、ふたりの対照的な女を対照的に描くことに主眼が置かれた作品に見えました。
 恋多き女でいかにも女、女していて、結婚もしたし出産もして、政治家としては脇が甘く不遇に終わり、しかし意外にサバサバと男っぽい気質でもあったのではなかろうかと思われるメアリーと、結婚もせず世継ぎも産まず男に互して生き、賢王として国を治め栄えさせ大国と渡り合い、しかし意外に嫉妬深く自分の評判を気にする女っぽさがあったエリザベスと。代々それを、歳若くどちらかと言うと理知的なイメージの女優と、より年長でどちらかと言うと情の濃いタイプの女優とで演じてきた。役のキャラクターとはむしろ逆に思えるような布陣で。
 実際には顔を合わせることなく終わったとされているふたりですが、このお芝居では会うことになっている…と聞いていたのですが、夢オチでしたね。そしてお話はメアリーの処刑で終わる。
 最後にメアリーが史実どおり赤いドレスに着替えて出てくるので(ポスターで赤を着ているのは神野三鈴の方なのですが)、青いドレスのエリザベスが語って閉めると美しい、と思ったけれど、ここでは神野三鈴はケネディでした。なのでやはりこれはエリザベスとメアリーの物語ではなく、メアリーの物語だということなのでしょう。
 でも、別に個人的にエリザベスの方により肩入れしたとかそういうことではなくて、これだけ対照的に対に描いてきたのだから、片方だけがタイトルロールであり主人公っておかしくないか?と思ったのでした。
 そして、メアリーの物語というか人生の顛末、解釈はわかりやすいけれど、エリザベスのそれはうまくまとめられていないのではないかと思いました。あまりにも不世出の人物すぎて、難しい生き方を強いられたキャラクターとして、上手くすとんとわかりやすい「お話」に落ちていない、というか。映画『エリザベス』とか『エリザベス:ゴールデン・エイジ』を見ていないせいかもしれませんが(『ブーリン家の姉妹』は映画、原作とも大好き!)。だからエリザベスの物語により興味を持ち、それが語られないことにやや不満を感じてしまったのかもしれません。
 現代にも通じるフェミニズムの問題、みたいなものは私は感じませんでした。単純に歴史絵巻として、またあるふたりの女の生き方とその係わり合いの物語として、おもしろいなと思いました。だから私だったら「エリザベスとメアリー」のお話にする、もっと言えば、残された者であるエリザベスのお話にする、と思ったのです。だとしたらメアリーの処刑を語るのはエリザベスにしただろうし、その後にエリザベスが天寿をまっとうする場面も作ってそれはメアリーの亡霊に語らせたでしょう。そんな、実際には会うことがなかった、対照的な、しかしどこかでとても似ていたふたりの女の物語を、観てみたかった。
 この舞台自体は素晴らしかっただけに、そんなこともつい考えてしまったのでした。



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