駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

鈴木おさむ『芸人交換日記』(太田出版)

2011年10月25日 | 乱読記/書名か行
 結成11年目、いまだ鳴かず飛ばずの漫才コンビ「イエローハーツ」。これまでコンビの今後について真剣に話すことを避けてきたふたりも、気がつけば30歳。なんとかして変わりたい、そう思ったふたりは「交換日記」を使ってコミュニケーションを取り始めるが…

 泣きはしませんでしたがほっこりじんわりしました。
 よくできている。オチもいいと私は思う。
 もちろん田中派です。

 しかし甲本は家族や相方のために夢をあきらめたのではないと思う。
 単に彼には「夢を諦める才能」がちゃんとあったから、だからやめられたのだと思う。誰のためということではなく、何よりも自分のために…

 それにしても「夢を諦める才能」とはすごい言葉だなあ。
 才能だけで勝負する世界というのは本当に恐ろしい。
 そういう業界のひとつに長く勤めた人でないと書けない作品だと思いました。

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池井戸潤『下町ロケット』(小学館)

2011年10月25日 | 乱読記/書名さ行
 佃航平は宇宙工学研究の道をあきらめ、東京都大田区にある実家の佃製作所を継いでいたが、突然の取引停止、さらに特許侵害の疑いで訴えられるなど、大企業に翻弄され、会社は倒産の危機に瀕していた。一方、政府から大型ロケットの製造開発を委託されていた帝国重工では、百億円を投じて新型水素エンジンを開発。しかし、世界最先端の技術だと自負していたバルブシステムは、すでに佃製作所により特許が出願されていた。宇宙開発グループ部長の財前道生は佃製作所の経営が窮地に陥っていることを知り、特許を20億円で譲ってほしいと申し出るが…
 今年の直木賞受賞作。

 エンターテインメント企業小説としても、金融小説としても、よくできているし、おもしろく読みました。
 パンチに欠けるかもしれませんが、手堅いし、受賞作としても問題ないのではないでしょうか。
 一部には「震災によるご祝儀受賞だ」みたいな声もあったそうですが…

 ただ、もうひとつ押せたな、と思うのは、夢や仕事と同じくらい人生に不可欠であるはずの家族のドラマがない部分。
 というかぶっちゃけ女性キャラクターが描けていない、というかほとんど出ていない部分について、です。

 WOWOWのドラマでは協力してくれる敏腕弁護士が女性キャラクターに変更されたようですが、それだけでは生ぬるい。
 主人公はバツイチなのに、元妻とも娘ともドラマがないなんてありえないはずです。なのにスルーですもんね。
 まず、キャリア志向の女性だからって年頃の娘を夫の元に置いてくるなんてありえないと思う。たとえば娘が父親を選んだ、というのならわかるけれど。
 それでいて難しい年頃になると父親とは口も利かなくなり、母親に恋愛相談していたりとか、万引きで捕まるとかさ、何かドラマがあってもいいはずですよね。
 そういう厚みがない。
 ただただ男たちが仕事に汲々しているだけってのは、社会はドラマとしてもやはり一面的過ぎると思います。

 女性研究者は現実にまだまだ数が少ないので、主人公の小さな会社に影も形も見えないのは不思議ではないかもしれない。
 しかし唯一ある女性社員の描写が、先代社長のころから総務にいる「オバサン社員」だというのですが、これがまったくもっていただけない。
 たとえば著者は自分が「オジサン作家」と表現されたとしたらどう思うのか、何を指しているのだと考えるのか? 本当に問い質したいよ。
 この点に関してはやかましいと言われようがなんだろうが、もの申しておきたいと思います。
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『ジンギスカン』

2011年10月25日 | 観劇記/タイトルさ行
 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール、2011年10月5日マチネ。

 1172年、青年テムジン、のちのジンギスカン(紫吹淳)とケレイト族の姫カルカ(鈴木亜美)は出会い、恋に落ちるが、世は民族の勢力争いの真っ最中であり、ふたりは大草原を舞台に争われる戦いに巻き込まれていく…
 原作/牧逸馬、脚本/窪田篤人、演出/山田孝行、美術/中嶋正留、音楽/寺田瀧雄。総合演出/市川猿之助。1986年初演。

 リカちゃんの男役は、今にも現役に戻れそうな素敵さでとてもよかったです。低い声、押し出しの良さ、ヒロインに対する甘やかさなど絶品でした。
 男優さんたちに混じると確かにある種の違和感は感じられるのかもしれませんが、それは「男に見えない」とかいうよりもむしろ、「全然違うものに見える」ということで、歴史的ヒーローの特異なオーラを表すことにもつながっていて効果的だったのではないかと思いました。
 そういう意味でこの起用は正しかったと思うし、「この作品を宝塚版でやってみたらどうなるのか」という発想があったそうですが、多少手を加えればかなりおもしろい大劇場公演になるなと思いました。

 ただし今回の公演に関して言えば、いただけない部分がはなはだ多く感じられたのも事実です。

 まずセットと美術に芸がない。低予算なのかもしれませんが程があるだろうと言いたい。
 それから歌の入れ方に芸がない。特にボルテ(玉置成美)が芝居のあとカーテン前に出てきて歌って、というのか二回繰り返されたときには本当に仰天しました。何故続ける!
 いったいに歌はすべてカーテン前で歌われたのではなかろうか…そんなミュージカルあるかい。
 きっとキムシンならもっと上手くやってくれるよ…(ToT)

 それからタイトルが良くないと思う。
 たとえば『星よりも風よりも』とか『草に生き愛に生き』とかさ、なんでもいいんだけれど、もっと叙情的な散文的なタイトルにしたほうがいい思う。ジンギスカンの名前はサブタイトルにあれば十分です。
 というのも、この作品の主眼は主人公の英雄的な一生とかモンゴル族による草原の平定とかいうことにはなく、あくまでテムジンとカルカとジャムカ(佐藤アツヒロ)の三角関係にあるからです。
 それこそ宝塚歌劇にふさわしいメロドラマですが、それで十分におもしろいしドラマチックなので、そっちにもっともっと特化した構成にすべきだと思うんですよね。
 そして三角関係とともに大事なのは、三人がそれぞれ違う部族の出身であるということ、それが協力し合ったり反目しあったりして覇を競い合っているということ。それが恋愛だけでない緊張感を生み出すはずなのですが、そのあたりが実に説明不足でワケわからなくてもったいなかったです。
 誰がどこの部族でそれはどこと対立していて、という基本情報をもっとわかりやすく提示することは全然できたはずなのになあ、もったいない。

 というワケでドラマ的にはかなり脳内補完して観ることになりました。
 それに特にヒロインの演技にまったく情感というものがなかったので、せっかくリカちゃんが色っぽい芝居しているのにもったいなかったなあ…
 そしてテムジンと信頼しあう親友であり盟友であり義兄弟の契りを交わした仲でありながら、妻カルカとテムジンとの不義を疑ってしまう悲しい役どころのチャムガも熱演だったのに…
 とうあすちえとかでやるとよかったと思うよ!

 劇場は初めてでしたが天井が高い綺麗な舞台で、バレエの公演なんかに良さそうでした。

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