駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『ピアフ』

2011年10月27日 | 観劇記/タイトルは行
 シアタークリエ、2011年10月27日マチネ。

 エディット・ピアフ、本名エディット・ガシオン(大竹しのぶ)はフランスの貧民街で生まれ、路上で歌いながら命をつないでいた。ある日、ナイトクラブのオーナー(辻萬長)がエディットに声をかける。「小さな雀」ピアフ、の愛称がついたエディットの愛の歌はたちまち評判になる。華やかで順風満帆に見えたピアフだが、私生活は孤独で切実に愛を求めていた。ピアフが見出し、愛を注ぎ、国民的歌手に育て上げたイヴ・モンタン(田代万里生)、シャルル・アズナブール(KENTARO)、ボクシング・チャンピオンのマルセル・セルダン(山口馬木也)、生涯最後の恋人となるテオ(碓井将大)…最愛の恋人を失ったときも、病が体と心を蝕んだときも、ピアフはマイクに向かい続けるが…
 作/パム・ジェムス、翻訳/常田景子、演出/栗山民也、音楽監督/甲斐正人。1978年イギリス初演、2008年改訂。

 「台本をいただいた時は正直、情報量が少なくてよく分かりませんでした」と語る出演者がいるとおり、ピアフのレパートリーが何十曲と歌われる中、短いエピソードがスピーディーにパタパタと展開され、ある程度史実を知らないと何が起きているのか誰が来て誰が去っていったのかそれは何故なのかよくわからないことも多く、観ていてやや疲れる作りの舞台でした。二幕はまだゆっくり芝居がなされる感じなのですが。
 それでも、やはり、泣かされました。
 才能にあふれ、けれど愛に恵まれず、もがいて苦しんで自分で自分を傷つけるようなことまでして、転落していく不幸な天才…というのは手垢のついたモチーフだと思います。必然的すぎる、あたりまえすぎる。
 だから私の涙腺が決壊したのはそういう部分に対してではなくて、二幕のラスト近く、テオとのデュエット(音が取れてなくて歌が下手なのはわざとなんだよね? ね?)「愛はなんの役に立つの」。
 これまで何度も何度も恋をしてきて、何度も何度も恋人に去られて傷ついて、それでも次の恋を見つけていったピアフが、
「あなたは私の最後の恋人」
 みたいなことを歌ったことです。
 今度ばかりは、自分の方が恋人を残して先に逝く、ということを、この時彼女はわかっていたのです。それくらい体調が悪く、見も心も病に折れそうになっていたにちがいない。まだまだ若いのに、これまで過酷な人生を生き抜いてきたというのに…
 なのに、自分の死期を予期してなお、恋人と愛の歌を歌うピアフは喜びに輝いて若く明るく見える。その明るさに、美しさに、泣けて泣けて仕方がありませんでした。
 そして畳み掛けるように、「愛の讃歌」の熱唱…卑怯すぎる。号泣でした。
「ステージで失敗することをいつも恐れている。でももっと怖いのはステージが上手くいったとき。終わらせたくなくなるから、終わったらまたひとりだから…」
 というような、なんともせつない台詞がありました。ピアフは天国に行ってやっと、好きなだけ歌い続けられたのでしょう。愛する人たちに囲まれて…

 大竹しのぶの「天国への階段」というCDを持っていますが、そしてこれはごく綺麗なソプラノで歌われているのですが、ミュージカルの舞台などでは歌が上手いと思ったことはないし、そもそも声が本当はあまり良くないのではないかとすら私は思っています。
 しかし今回はそれでも地声で力任せに歌う様子が本当にピアフのイメージをよく表現していて、功を奏していたと思いました。
 舞台にほとんど出ずっぱりで、ちょっと袖にはけてもすぐものすごい早変わりで出てくる。
 そして毎回こんな濃い人生を歌い生きる…こんな公演を日によっては二回、ほぼ毎日続けていくなんて、消耗するだろうなあ。役者ってすごいなあ…
 下品で露悪的な台詞もチャーミングに見せるところはさすがでした。

 タイトルロール以外は、キャストは何役もこなします。
 マレーネ・ディートリッヒとピアフの秘書マドレーヌを演じたサエちゃん(彩輝なお)、鮮やかでした! 男装の麗人姿も白いフルレングスのドレス姿も素敵、そしてすぐ早変わりでマドレーヌに変わってみせたこと! すばらしかったです。女優のサエちゃん、好きなんだなあ。
 シャルルの「忘れじのおもかげ」、田代くんを中心にカンパニーで歌う「Misericorde」もとても良かったです。
 実力派キャストが贅沢に使われた舞台でした。
コメント (1)
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