駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『THE MONEY』

2023年08月27日 | 観劇記/タイトルさ行
 CBGKシブゲキ!!、2023年8月25日18時半、26日17時。

 シンカンミツキ(寿つかさ)の夫が突然失踪した。理由は不明。警察に相談しても門前払いで、ミツキは自ら夫を捜索する中、ある洋館を訪れてひとりの女と出会う。その女、アオイ(七海ひろき)は「あなたと5000万円を山分けしたい」と言う。そのお金はミツキの夫が過去に犯罪行為により手に入れたもので…
 脚本・演出/保木本真也、プロデュース/七海ひろき。他の配役はマリ/緒月遠麻、サエ/伶美うらら、ウオ/澄風なぎという、元宝塚歌劇宙組子によるミステリー・シチュエーションコメディ。QQカンパニー初公演、全1幕。

 ひと口に宝塚OGといっても卒業後の進路は幅広く、芸能関係に進む人はむしろ意外と少ないのかもしれませんが、その中でもかいちゃんはなかなかに独自な路線を切り開いていて、ホントすごい人だと思っています。小劇場とか、ブロデュースとかに興味があるというのも、なんとなくさもありなん、です。かつての仲間を揃えて、テレビドラマの主演をした際の脚本家さんに当て書きでオリジナル書き下ろしを依頼して、ちゃんと舞台の形にしてみせるんだから、ホントたいしたものです。
 休憩なし、90分の脳味噌が揺さぶられるシットコムで、観客もタイヘンですがもちろん役者はもっとタイヘンなのでは…卒業後の初仕事、というか初主演のすっしぃさんは、出演者が70人と5人の違いはもちろんありますが、今のれいちゃんよりれいこちゃんより咲ちゃんよりこっちゃんより多い量の台詞を間違いなく担当しているだろう、と思いました。でもこなしちゃうんだもんな、ジェンヌってホントすごい…! それで言えばかいちゃんも、キタさんも、ゆうりちゃんもたっくも、一癖も二癖もある役をきっちり演じて、ボケてつっこんで笑いも取っての八面六臂で、ホントたいしたものでした。『刀剣乱舞』には呼んでくれたのに、うちのはダメでしたかかいちゃん…?とか実は思っていたのですが、こりゃ無理だ、このスピードには対応できないよねあきちゃんは…とか思いました、すみません。
 とにかく、ホントおもしろかったし、興味深かったです。

 以下ネタバレで語ると、サブタイトルは「薪巻満奇のソウサク」とされていて、これが夫を捜索しているシンカンミツキのこと…と思いきや、実はそれは劇中劇で、これはマキマキマキというややアレなペンネームでミステリーを執筆している小説家の創作なのでした。かいちゃんは「ソウくん」と呼ばれる編集者ですが、おそらくは「蒼」みたいな字で、それで小説の中ではアオイという女性キャラになっているのかもしれません。このふたりが現実の存在(?)で、マリ、サエ、ウオはマキが創作した作中のキャラクターです。が、作家の脳内ではよくあることに、実感を持って、実在の人物のように動き出し、作者自身もコントロールできなくなっていったりするのでした。
 そんなメタ、とも違うけれど、二重構造を持った作品で、展開に詰まったマキがソウと相談しながらお話を作っていき、作中で「5人の犯罪者」が右往左往する、という舞台です。最後はオープンエンドというか、ミステリーとしてダメじゃん!アレレ??みたいな終わり方をするのですが、まあ別に綺麗に決着しなくても、そこまでの過程やドタバタがおもしろいからいいんだよ、というタイプの物語です。
 というか、なのでメインのドラマとしては書けないと騒ぐ作家となんとかして原稿を取ろうとする編集者との駆け引き、掛け合いにあり、それは今は営業ですが過去20年編集をやっていた身としてはもうエモエモのエモでめっさ刺さるのでした。「いや、書けよ!」とか思わず怒鳴るよね、ウンウン(笑)。
 そう、世の中のみなさんは、編集者の仕事って原稿を待つことや受け取ることだと思っていて、作家の仕事場の座敷かなんかでイライラ時計見ながら座って待ってる…みたいなのがイメージなのではと思いますが、本質的にはそうではなくて、作家と一緒にお話を考えるのが仕事なんですよね。もちろん実際に文章にしたり漫画に仕立てるのは作家なんだけれど、話はほとんど自分が作った、原作料が欲しいくらいだ、って人から、ストーリーには本当にノータッチでただ作家を気分良く作業させることに注力してお茶入れたりおやつ差し入れたりするだけの人まで、関わり方に濃淡はありますが…そうやって共同作業で形にした作品が、ミリオンセラーの大ヒットになってアニメになりドラマになり映画になって作家が億万長者になっても、編集者には印税はビタ一文入りません。逆にまったく当たらずかすらず儲からず、作家がなけなしの原稿料では食べていけずバイトしてずっとモヤシを食べてしのぐ極貧生活を送っていても、編集者はちゃんと会社からお給料をもらえています。そういう商売なんです、編集って。で、会社の業務として担当を振られたら、作家につく。
 マキとソウは年齢もキャリアも差がありそうですが、まあまあいいコンビなのでしょうね。でも、友達でも恋人でも家族でもない。担当している間だけの関係なので、ビジネスパートナーとも言い難い。でも、協力して、おもしろいものを、誰かに愛され求められるものを作ろうと、あーでもないこーでもないと大騒ぎして七転八倒する生き物同志です。そんな一夜を描いた90分なのでした。
 ある意味で全員が二役を演じていて、その役者がみんな達者で、照明の変化が効果的で(照明/村山寛和)、BG程度なんだけど音楽もニクくて(音楽/森優太)、ワンシチュエーションでなんでもできるということがよくわかる、演劇の醍醐味にあふれた舞台でもありました。また座組を変えて、いろいろやっていってほしいなあ。かいちゃん、ホントすごいなあ。
 小さいハコでしたが完売御礼、配信もやるし、さすがですね。大阪公演もどうぞ無事に完走するよう祈っています。来たことがある気でいた劇場でしたが、記録も記憶もなかったので初めてでしたね。椅子がいいのに仰天しましたが、前列との間は狭すぎました…でも作品にはちょうどいい大きさで、生声でも十分で、わけてもキタさんは十分以上の声量でした(笑)。というか同伴した後輩は滑舌がいいのに感動していたなあ…確かにあんな長台詞、まあまあ早口でも綺麗に聞き取れましたもんね。やはりクオリティが高いなあ…
 しかし観た2回とも80分、85分くらいで終わってました。マキだけに、巻きすぎでは…(笑)残りの公演も、どうぞご安全に。





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『SHINE SHOW!』

2023年08月23日 | 観劇記/タイトルさ行
 シアタークリエ、2023年8月21日18時。

 真夏の夕暮れ時。オフィス街の一角にある複合オフィスビルの中庭に豪華な野外ステージが建てられ、派手な照明と爆音の中、音楽ライブが行われている。このビルにオフィスを構えるさまざまなジャンルの会社員が参加し、歌唱力を競う夏のカラオケ大会だ。「第48回あかりビルディング会社対抗のど自慢大会」3日目、決勝大会当日、チャンピオンが決まろうという裏で、さまざまなトラブルが発生し…
 作/冨坂友、演出/山田和也、音楽/栗山梢、ステージング/青木美保、美術/中根聡子。「普段は全く違う仕事をしている会社員達が、年に一度スポットライトを浴びて歌手になる、会社対抗のど自慢大会」「それを舞台裏の騒動のバックステージコメディとして描き、さらには後半をショーにする」という構想で企画され、作家主宰の劇団アガリスクエンターテイメントで昨年上演された作品をこの座組で上演。全二幕。

「“働くこと”を格好良く描こう」「人は、働き、歌うものだ」というコンセプトがいいですし、バックステージものとして、シチュエーション・コメディとして、お仕事ものとして、とてもよくできた舞台でした。ミュージカルではなく、あくまで歌謡ショーつきのストプレ…みたいな構成なのもいい。もう一押し歌唱を増やしてさらにショーアツプしてもよかったかもしれません。でも、本当にウェルメイドなコメディでした。
『ムーラン・ルージュ!』が洋楽ヒットメドレーならこちらは邦楽ヒットメドレー、とプログラムにありましたが、確かに「対抗して」いるのはそこで(笑)、そしてある意味拮抗したいいオリジナル作品が作れていると思いましたから、たいしたものです。まあこれがワールドワイドに通じるかというとそこはアレなのですが、ローカル内評価では遜色ないと思いますし、なんならこっちの方が刺さるという層だってあるでしょう。いやホントたいしたものでした。
 作家にも役者にもサラリーマン経験などほぼないはずですが、会社あるある、仕事あるあるな感じと、今どきあるあるな台詞、演技がとてもナチュラルかつ秀逸で、感心しました。今をちゃんと生きていないと、こういう台詞はなかなか描けないしこういうふうにお芝居できないものです。人間というものに対する見方がちゃんとしているということでしょう。
 また、まぁ様が流れるようなビジネス敬語を使い90度のお辞儀をし、パンツスーツで闊歩するバリキャリを演じる姿とか、なかなか見られるもんじゃないですよね。アイドル上がりの経理OLでいかにもな制服着ながら警備員室でクダ巻いちゃうかのちゃんとかね、新鮮かつおもしろすぎました。みんないい配役だし、19人の登場人物全員がみんなよく立っていて、素晴らしかったです。いわゆるプリンシパル以下は劇団アガリスクエンターテイメントの劇団員がほとんどだったようですね、そこもまた手堅かったです。
 惜しむらくは、私は笑いには厳しいのですが本当におもしろく観たので、おそらく週末の公演の方がもっとどっかん盛り上がっていたのではなかろうか、と感じられたことです。平日の夜公演はそれこそ仕事を終えて来たお疲れ気味のOL観客が多いからなのか、わりと客席の笑いが少なめに感じたんですよね…まあ、こういうのは1回1回空気が違うものだから、仕方ないかな。
 鈴本さん(朝夏まなと)が安易に加瀬くん(小越勇輝)とくっつくとか、あるいは弦田さん(久ヶ沢徹)といい感じになるとか、なくてホントよかったです。加瀬くんはイベント担当1年目ということを差っ引いても、気が利かない、仕事が今ひとつできない今どきの小僧な後輩で、鈴本さんはホント優秀だから正しい叱り方としっかりした指導をしているんだけれど、最後には「おまえ全部言うのな!」とキレちゃったりして(笑)、でもそうやって胸襟開いたからってやっぱり十か下手したら干支一回りも歳が違うんだろうし、歳の差はともかくそれぞれ別にお相手がちゃんといるのかもしれないし、たとえフリーの独身同士でもそれでラブが生まれるかといったら全然そんなことはなくて、所詮は会社の先輩後輩なんだから、たとえ異性でも何も漂わなくて当然なんですよ。でもついラブ、描きがちでしょ、フィクションって。でもこの作品はそういうことをしていない、それがいいのです。
 琴浦さん(花乃まりあ)と浅見さん(淺越岳人)もそうです。かつてのアイドルとその単推しドルオタがOLと警備員として再会して、何かが生まれちゃったりしちゃったりしないでもないところを、何もないままに終わるのです。でも浅見さんは満足でしょう、そこがいい。琴浦さんも同期のちひろ(榎並夕起)と和解しますしね、その方が大きいですよね。それでも飲みになんか行かないところも、なんかリアルでよかったなあぁ。
 司会者コンビが元恋人同士だったり、父と息子の確執があったり、プロポーズ大作戦があったり、Vtuberの身バレ騒動があったり、ネガティブというかほぼ鬱みたいなシステムエンジニアのひとり相撲があったり…トラブルは多彩でホントどれもめんどくせー!ってなもんでしたが、鈴本さんががんばってバサバサ捌く姿がホント凜々しかったです。
 てか中川あっきー、ピンクのスーツはプロポーズ用衣装だったんだね、ってのがめっちゃおもしろかったし、イベントスタッフの秋野さん(前田友里子)役の女優さんがホントいい味出していました。てかみんなそんな人に見えるの、すごいよなあ…代理店さんとかさ、ゲストミュージシャンとかさ。
 でも全部さらっていったのは木内健人の「粉雪」熱唱とドリフ(笑)、だったかな。仕事の書類をシュレッダーにかけたものが紙吹雪として使われ、それがドカ雪のごとく落とされる…ってだけなんだけど、やはり破壊力がありすぎました。まあ笑った笑った、ドリフってすごい…! また歌がむやみに上手いんだコレが!!(笑)
 もちろんかのちゃんのあややもよかったよ、さすが元トップ娘役ですよきゅるんきゅるんでしたよ! そしてまぁ様も、まさかの音痴設定なんだけどそれがまたよかったし、イメージの弦田さんと微妙にハモっちゃうのもおもしろすぎたし、そもそも鈴本さんの弦田さんのファンっぷり、モジモジっぷりがもう可愛すぎておもしろすぎました。てかみんなホント芝居が上手すぎる…! 贅沢…!!
 私は音楽には疎い自身があるのですが、こういうカラオケ大会ってこういう選曲になるよね、って感じでやや昭和な、メジャーな歌謡曲揃いだったのも楽しかったです。BGをちゃんと聞くためにリピートしたくなっちゃうくらいでした。こういう作品がロングランになっていったり、また違う座組で上演されていったり、シアタークリエがシットコムの聖地と呼ばれるようになる…と、ホント素晴らしいんだろうなと思いました。演劇には、舞台には、まだまだ可能性があるなあ。オリジナル作品、がんばってもらいたいなあ。
 元気が出る観劇でした。







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『桜の園』

2023年08月17日 | 観劇記/タイトルさ行
 PARCO劇場、2023年8月13日13時。

 サクランボの花が満開の5月、女主人ラネーフスカヤ(原田美枝子)がパリから久しぶりに屋敷に帰ってくる。帰還を喜ぶラネーフスカヤの兄ガーエフ(松尾貴史)、養女ワーリャ(安藤玉恵)、近くの地主ピーシチク(市川しんぺー)、老召使フィールス(村井國夫)。しかし一族の膨らんだ負債返済のため、8月に銀行が「桜の園」を競売にかけようとしていた。百姓の息子だったロバーヒン(八嶋智人)は今や実業家で、桜の木を切って別荘地として貸し出せば競売は避けられると助言するが…
 作/アントン・チェーホフ、演出/ショーン・ホームズ、英語版/サイモン・スティーヴンス、翻訳/広田敦郎。1904年モスクワ初演、1915年日本初演。世界中で上演され続けている戯曲。全二幕。

 他にトロフィーモフ(ペーチャ)/成河、アーニャ/川島海荷など。
 吉田秋生『櫻の園』は愛蔵していますが、舞台は初めて観ました。これでチェーホフ四大戯曲をすべて観たことになる、のかな?
 でも、なんかあまり刺さりませんでした…もとともと何が起きるとかいうタイプの舞台ではないし、せめてもっと積極的に好きな女優さんでのヒロイン役だったら、印象がまた違ったのかも。いつともどこともつかない衣装、小道具、セット(美術・衣裳デザイン/グレイス・スマート)なんかはおもしろいなと思いましたし、冒頭にチェーンソーを持った作業着姿の男性(永島敬三)が「シェリー」を「♪チェリー」と歌いながら舞台を横切って始まる演出など、おもしろいなとは思ったんですけれどね…(英題は『ザ・チェリー・オーチャード』なんだそうです)
 アフタートークつきの回でしたが、後ろに予定があり、見ずに出てきてししまったので、見ていたらまた何かが深まったのかもしれません。すみません…







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音楽劇『精霊の守り人』

2023年08月04日 | 観劇記/タイトルさ行
 日生劇場、2023年8月2日18時。

 短槍使いの用心棒バルサ(この日は明日海りお)は、思わぬことから新ヨゴ皇国の宮殿に呼び出され、二ノ妃(雛形あきこ)より息子である第二皇子チャグム(この日は込江大牙)を連れ、逃げるよう言い渡される。チャグムの身体に宿った精霊の卵を魔物と考えた帝(唐橋充)が、暗殺を企てているというのだ。バルサは幼馴染みの呪術師見習いタンダ(この日は村井良大)の助けを借りながら、帝が放った刺客や卵を狙う魔物と戦うが…
 原作/上橋菜穂子、脚本/井上テテ、作詞/国井桂、演出/一色隆司、音楽/かみむら周平。ドラマ化、アニメ化もされた1996年刊行のファンタジー小説を舞台化。日生劇場開場60周年記念公演、ファミリーフェスティヴァル公演。全二幕。

 原作は昔読んだ気がするのですが、そんなにはハマらなかった記憶…子供向けに上演時間が短いショート・バージョンも用意された公演で、私は子供が嫌いなので嫌な予感はしていたのですが、子供向けというものを誤解した子供騙しな舞台に思えて、ちょっと、かなり、退屈しました…
 私が観たのは通常版で、平日夜公演でもありましたし、もう夏休み期間でしょうが観客が家族連ればかりで子供がわあきゃあ叫ぶ…みたいなことはまったくありませんでした。子供向け回を知人の家族と観た親友によれば、開演前の子供たちの騒ぎっぷりは阿鼻叫喚で大変なものだったそうですが、舞台には集中して見入っていたとのこと。つまり、子供向け企画としてはこれで成功している、ということなのでしょう。
 でも私は、まず冒頭のターコさんのナレーション説明からして、あいまいというか漠然とした言葉の多い、わかりにくいものだなーと感じましたし、その後も脚本がスカスカというか、台詞や会話に情報量が全然なく、痩せていて芝居のしようがないようなものに思われて、観ていて閉口しました。舞台装置も単純だったし(美術/乘峯雅寛)、殺陣もなんだかなあで(アクション/加藤学)、魔法や魔物みたいなものの表現もなんか…かなりイマジネーションのおもしろさに欠けたものに思えたので、何をどう楽しんだらいいの…?って感じだったんですよね。みりおの歌はあいかわらず高音が微妙でしたし…
 というかみりおも、ダブルキャストの梅田彩佳も、実年齢はともかく小娘に見えがちな外見の役者さんだと思うので、ぶっちゃけバルサっぽくないじゃないですか。そしてチャグム役者も、オーディション時にはもっと少年っぽかったのかもしれないけれど、成長期で背が伸びたのかあっという間に青年っぽくなってしまったようで、これじゃ原作者が最初にイメージした「中年のおばさんが、男の子を守って旅をする話」になってなくないか…?というのが何より残念でした。
 チャグムはふたりともこれが初舞台だそうで、私が観た方は、映像のキャリアはあるとのことですが舞台の声も姿勢も全然できていませんでした。そもそも無口で、またとまどってもいるので口数が多いキャラではない、というのでボロが出づらくなっていたかと思いますが、それでもまとまってしゃべらざるをえないくだりはあり、その台詞はかなりつらかったです。またラスト、バルサが「私と逃げるか? 暴れてやろうか?」と言うのを断るくだりは、チャグムがつまり王宮に戻り皇太子になりやがて王になる運命を受け入れたということなので、そこでしゃっきり背筋を伸ばして綺麗に立つ、くらいのことをしてほしかったのですが、ずっと猫背でぼやんと立ったままでした。逃避行に呆然とし疲弊し不安でしょぼくれている少年…のときはそれでよくても、仮にも王子なんだから教育はされているはずで、でもそのお行儀を体現する役者としての技術がまだないのが丸わかりで、残念でした。ぴあ貸切公演でカテコがあり、挨拶の様子は真面目で茶目っ気もあって好感が持てたので、これからのお稽古や場数次第だなとは思えたものの…うぅーむ。
 村井良大があまり大きくないのはいいな、と思ったんですよね。原作の描写がどうかは忘れましたが、彼は決してスマートな二枚目などではなく、成人だけど小男、という役どころなのかなと思えたので。なのでバルサは、たとえばチエちゃんとかきりやんなんかがやった方が、長身の中年の女丈夫感が出て、そこに小男と少年、って絵面が理想的だったのでは…などと考えてしまいました。
 家族向けということでチケット代金も最近の舞台にしてはとてもお安く、なのでまあ許せるか、という気にもなりましたが…うぅーむ、不満です。いい観客じゃなくてすみませんでした。



 






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『少女都市からの呼び声』

2023年07月31日 | 観劇記/タイトルさ行
 THEATER MILANO-Za、2023年7月29日14時。

 手術台に寝かされているひとりの男、田口(安田章大)。付き添っている親友の有沢(細川岳)とその婚約者ビンコ(小野ゆり子)は、看護婦(桑原裕子)から田口の身体の一部を取り除くかと迫られる。その一部とは、誰のものかもわからぬ一握りの髪の毛だった。有沢が答えに窮する中、田口は妹の雪子(咲妃みゆ)を探しに夢の世界へと旅に出た…
 作/唐十郎、演出/金守珍、音楽/大貫誉、美術/大塚聡。1985年劇団状況劇場初演、1994年には新宿梁山泊が上演し、フランス、韓国、アメリカ、オーストラリアでも上演されてきた傑作戯曲。全1幕。

 Bunkamura×唐十郎×金守珍公演は4度目だそうで、前作『泥人魚』は私も観ていて感想はこちら。
 というかプログラムがコクーン仕様で、そうだ東急歌舞伎町タワーなるものにできたこの新しい劇場は同じ系列に当たるのか、と今さらに思いました。確かにハコの作りはやや似ているかな。
 ただビルの六階なのにエレベーターが止まらず、エスカレーターでしか上がれない、という導線のひどさが本当にひどいです。改札前も味気ないし、劇場内もロビーやホワイエみたいなものが全然ない、ほぼ通路みたいな無味乾燥な作りでホントどうかと思いました(線路やビル群が眺められる大きな窓のあるバーも、端っこには作られていましたが)。お洒落で無機質に仕立てているんじゃなくて、単にお金をかけてもらっていない感じがうら寂しすぎました。
 客席も、今回私が座った二階サイド席は見切れを防ぐために椅子を高くしているようで、足が床から浮いて落ち着かないこと甚だしかったです。男性身体基準で作るな、床ごと上げろ。というかこういう見えない席を作るな。舞台に向かってまっすぐコの字型になっている客席のサイド席なんて観づらいに決まってるじゃん、舞台を半円形に囲むような客席を作れないのなら潔く正面席だけにしていただきたいです。一階席の床も歩いてみたら安普請の音がするし、椅子の座面も薄く平たく、あまりいいものでない感触でした。でもコクーン改修中はあそこでやりそうだった演目はみんなここでやるということなのか、はあ…つら……
 あと、これはハコのせいではないけれど街の周りの治安が悪すぎて、夜公演なんて絶対に行きたくありません…今回は週末のマチネで目の前の広場もイベントなどやっていてにぎやかでいい感じでしたが、普段は酔いつぶれた人が座り込んでいたり寝そべったりしているそうです。歌舞伎町って、言うても少し前までは言われているほどでもないというか、素人さん手出し無用、みたいな空気がちゃんとあって、映画に行くのも普通に安心安全だったのにな…もうダメですねホントこの国は。なので行くなら西武新宿駅からさっと最短距離で行くことをオススメします。新宿的から街を突っ切って来るのはもはや無謀です。
 出演者たちが安全に移動できていることを祈ります…それともちゃんと事務所の車の送迎とかがビルの下まで来ているのかなあ? ゆうみちゃん、気をつけて通ってね…(><)

 さてそんなわけで、ハコは残念だし上手奥が見切れ上手の手前端は手摺りが邪魔で見えないお席でホントしょんぼりでしたが、舞台そのものはわからないなりにすごくおもしろく観ました。それはもうとにもかくにもゆうみちゃん雪子が素晴らしかったからです。
 雪子は、ピノコです。双子として一緒に生まれるはずだったのに、何かの拍子にもう一方の体内に入ったまま生まれてしまって、そのまま育たずただそこにい続ける「妹」。田口はずっとその存在を感じていて、嬉しいときにはお腹の中の妹にもその喜びを味わわせるかのように、お腹を抱えて身体を弓なりに反らす癖があった…という設定です。
 アングラって、というかすべての創作はその作家の願望のイマジネーションを描くものだと思うのですが、要するにこれって、イマジナリー兄弟とか、むしろ自分が生まれなかった兄弟の方だったら生きなくてすんで楽だったのにとか、自分が双子の女の方だったら親友とも添えて生きるのがもっと楽だったかもしれないとか、なんかそういういたって都合のいい男性の願望、妄想みたいなものの物語なんだな…と、観ていて感じました。
 田口は夢の中で雪子に会いに行くのだけれど、双子というわりには雪子は田口より十ほどは若く見え、まさしく少女のようです。この、少女のようだけれど成人女性であり、天真爛漫なようでそれを通り越して野性的でもあるような、神秘的な美しさを持ったキャラクターを、まんま体現するゆうみちゃんが実に素晴らしいのでした。
 ゆうみちゃんはこれが初ストプレということですが、実はこの作品はミュージカルではないけれど歌もダンスもあり、歌い踊るゆうみちゃんがこれまた実に艶やかなのです。唐十郎が観たかった雪子ってまさしくコレなのでは!?とホントちょっとコーフンしてしまいました。
 雪子は身体をだんだんガラスにしていく手術を受けていて、ヴァギナはもうガラスでひんやり冷たくてツルツルなの、みたいな台詞を言うんですけれど、それすらも清らかで禍々しくて素晴らしい。てか男ってどんだけ女体にファンタジーを抱いているんだろうね、と頭のもう一方の隅では激しく呆れ冷めている自分もいたのですが、とにかくいろいろあって田口は雪子と約束の指の交換というかなんというか…をするんだけれど、要するに田口は実は有沢のことが好きでビンコのことを妬んでいて、自分が雪子になって有沢と沿いたかった、ということなんじゃないのかなあ、と私は思いました。ただ、田口の手術はなされてしまい、雪子の存在はなかったものとされてしまい、少女も少女都市も少女都市からの呼び声も田口にはもう聞こえない、と否定されてしまったけれど、本当はあるんだよ…と雪子は昇天していき、そして子宮の涙とされる輝くビー玉が何千何万と舞台の床を転がって、幕は降りたのでした。
 ワケわかりませんね? でもそれでいいんだと思います、とにかくゆうみ雪子が素敵だったので。

 もちろんフランケ醜態博士役の三宅弘城も、連隊長役の風間杜夫も達者でした。でも満州へのこだわりとかは、もうお若い観客には全然わからないんじゃないかな、てか私もコレだとよくわからん…とか思いました。主演の安田くんはジャニーズらしからぬとんがった指向の持ち主だそうで、だからファンも慣れていて彼目当てで初めて演劇を観に来たような若い女性がワケわからなくてどん退く…みたいな事態にはなっていないと聞きましたが、ならよかったです。
 風間杜夫は『泥人魚』もよかったけれど、「経験してないのはアングラと歌舞伎くらい」とプログラムで語っていて、前回で七十すぎてのアングラデビューになったそうですが、歌舞伎もスーパー歌舞伎なら浅野和之といい勝負の仕事をするのではないかと思います。テレビドラマの印象も強いけれど、もともとそういう舞台畑の役者さんですもんねえ。
 6月に新宿梁山泊がテント版公演をしていたそうで、その田口は六平直政、今回は老人A役。肥後克広の老人B役とともに、本編にはほぼ関わらないと言っていい客席いじりの、場面転換の間のつなぎのコントみたいなのをやっているんですけど、そのメタさはだいぶ謎でしたね…ここでしか笑いが起きないってのは、要するに本編の意味が伝わっていないのでは、という気がしました。
 あと、ポスターやプログラムのビジュアルが、雪子以外はほぼそんなイメージのお衣装で舞台に出ていましたが、雪子は全然ちがうものだったので、雪子も最初の青いワンピース姿でポスターに出してもよかったのでは、とは思いました。
 大阪公演は知らないハコだなあ…公演のご安全をお祈りしています。




 
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