映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ある女流作家の罪と罰(2018年)

2019-08-24 | 【あ】

作品情報⇒https://eiga.com/movie/90813/

 

 以下、公式サイトよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 かつてベストセラー作家だったリーも、今ではアルコールに溺れ、仕事も続かず、家賃も滞納、愛する飼い猫の病院代も払えない。生きるために著作を古書店に売ろうとするが店員に冷たくあしらわれ、かつてのエージェントにも相手にされない。

 どん底の生活から抜け出すため、大切にしていた大女優キャサリン・ヘプバーンからの手紙を古書店に売るリー。それが意外な高値で売れたことから、セレブの手紙はコレクター相手のビジネスになると味をしめたリーは、古いタイプライターを買い、紙を加工し、有名人の手紙を偽造しはじめる。様々な有名人の手紙を偽造しては、友人のジャックと売り歩き、大金を手にするリー。

 しかし、あるコレクターが、リーが創作した手紙を偽物だと言い出したことから疑惑が広がり……

=====ここまで。

 オスカーにも何部門かノミネートされながら、いずれも受賞を逃したせいか日本では劇場未公開。

 

☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆

 

 TSUTAYAの新作リストで出ていて、面白そうかも、と思って見てみました。何で劇場公開されなかったのか、、、。少なくとも、『天才作家の妻 -40年目の真実-』よりはゼンゼン面白かったゾ。

 

◆難易度の高い犯罪

 主人公のリー・イスラエルは、“作家”と言っても小説書きではなく、ノンフィクション、伝記作家の方ね。リーが“伝記作家”であったことが、この話では鍵になる。ちなみに、本作の元ネタは実話だという。

 本作の中で、リーはいとも簡単に有名人たちのニセ手紙を書いているように見える。けれども、この“偽造”は、もの凄くハードルの高い技だと思う。

 ただ有名人に起きた出来事をそれっぽく文章に書けば良いという単純なものではない。文章自体はタイプライターで打つのだが、文体や言い回しを本人の特徴に合わせなければいけないし、もちろん、事実に沿った内容でなければならないし、読ませる文面にしなければならない。

 何より、バイヤーが言うとおり、「刺激的な事実の告白」があればより高く売れるわけだから、いかにそれらを悪目立ちすることなく折り込んで本物っぽく仕立て上げるかというのは、ハッキリ言って、伝記を書くより何倍も難しいのではないか。

 そもそも、簡単に伝記と言うが、ノンフィクションを書くには、まず、綿密で広範な取材を行う必要があり、その取材成果から何を書くのかの取捨選択をしなければならず、さらに“売れる本”に仕上げるのには、読んで面白い内容と文章を書かなければならないという、大変なテクニックとエネルギーが必要なのだ。その上で、手紙を偽造となれば、さらにハードルが数段上がるはずだ。

 いくら生活に困って追い詰められたからと言っても、並のライターがそんなことをしたら、すぐにバレて買ってももらえないはずだ。しかし、リーの偽造手紙は、コレクターが皆目の色を変えて買うのである。文書偽造という立派な犯罪にもかかわらず、正直、見ていて痛快な気分になる。

 こんな才能があるのに、エージェントと上手く行かず、時代の流れに取り残されて、書きたいものが書けずに生活に困窮してしまうなんて、何というか、リー自身にとってももったいないが、社会にとっても損失だと思う。……まぁ、リーに限らず、社会に埋没している優れた才能なんて数え切れないほどあるとは思うが、、、。

 本当に優れた才能なら必ず日の目を見るはず、というのは、やっぱりちょっと違うだろうなぁと思う。余談だが、数週間前の新聞に出ていたが、ハリウッドの役者の世界では、役者自身の才能よりも、良い作品に恵まれたかどうかの方が売れっ子になる要素としては大きいという、真面目な調査結果もあるらしい。ライターの世界でも同じで、作品が日の目を見るかどうかは運に左右される部分も大きいだろう。

 ともかく、才能をイケナイ方向に使ってしまったリー。もうちょっと控えめにやってりゃ良いものを、調子に乗ってやり過ぎた。

 そこで偽造ができなくなったからってやったことが(ここでは敢えて書かないケド)、、、、これはさすがにマズイし、見ていても痛快さはまるでない。そして、これは、一発でバレて捕まってしまうのだ。万事休す。

 リーが法廷で裁判長に弁明する、その内容に胸が詰まる。

 

◆アラフィフ女とゲイの友情物語

 この映画は、一応、リーの才能が実現可能にした犯罪を描いているのだが、本作が面白い映画になっているのは、リーとゲイの友人ジャックとの友情を丁寧に描いているからだろう。

 単にリーがどうやって巧みに偽造手紙を書いたか、、、ということを描写したのであれば、テレンス・スタンプ主演の『私家版』のようなサスペンス映画っぽくなったはずだ。

 『私家版』も非常に面白い映画だったから、どちらが良いという訳ではなく、本作は、ジャックの存在が非常に重要だと感じた。リーは、性格的にもちょっと問題があるので親しい友人はおらず、可愛がっているネコだけが心許せる相手だったところへ、ジャックと何の利害関係も恋愛要素もない純粋な友情が自然に育まれていく様は、見ていてホッとさせられる。

 ちなみに、リーの偽造がバレたのには、リーがあまり紙にこだわらなかったからとも言われているらしい。文体や内容には非常に凝ったのに、紙はその当時にはなかった透かしの入ったものを使うなど、かなり無頓着だったらしい。引き換え、『私家版』ではテレンス・スタンプが微に入り細を穿って偽本を作っていて、その描写が息を呑むほどスリリングだった。

 ジャックは一見チャランポランなんだが、根は思いやりがあって、イイ奴なのだ。リーの偽造にも協力し、見返りも求めない。私がグッときたのは、悪臭漂う荒れきったリーの部屋を、鼻をつまみながら掃除してあげるジャックの姿。ベッドの下にネコの糞が大量に溜まっているのも、「ギャ~」とか言いながらキレイにしてあげる。こんなこと、私にはムリ。

 またまた余談だけど、リーが住んでいるアパートの部屋は掃除をすればなかなか良い部屋で、あんな部屋、住んでみたいと思ったくらい。欧米の住まいって、壁に作り付けの棚がある部屋が多くて素敵よねぇ。リーの部屋もあちこちに作り付けの棚があって、羨ましい。私も壁の棚が欲しくて、壁一面の棚をオーダーしてしまったくらいだけど、それでもやっぱり作り付けの壁の棚とはちょっと趣が違う。ああいう棚のある部屋に住みたいわ~。

 で、ジャックなんだけど、終盤に弱った状態になってリーと会うシーンが哀しい。もう、何もかも済んで、リーも偽造から足を洗っていてお互い笑顔で話しているんだけど、ジャックはエイズを発病していることが分かるんだよね。もちろん、リーも分かっているんだけど、敢えてジョークを言ったりして、、、。泣ける。

 リーを演じているのはメリッサ・マッカーシーで、アメリカでは有名なコメディエンヌらしいが、非常に演技も上手い。酒ばっかし飲んでブータレているアラフィフ女を実に巧みに演じている。ジャックは リチャード・E・グラント。ホントにゲイじゃないの?ってくらいハマっていた。  

 

 

 

 

 

原題“Can You Ever Forgive Me?”の方が切ないね、、、。

 

 

 

 

 ★★ランキング参加中★★


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ミクロの決死圏(1966年) | トップ | やがて来たる者へ (2009年) »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
許して (松たけ子)
2019-08-29 00:09:38
すねこすりさん、こんばんは!
この映画、面白そうだったので公開を楽しみにしてたのに、オクラ入りに。WHY?でもDVDで観られるみたいなので楽しみ。ご感想を拝読して、ますます観たくなりました(^^♪
才能も運もない私は、ある意味幸せ者。すごい幸福にもならないけど、すごい不幸にもならないだろうから。
ハリウッドのスターも日本の芸能人も、売れるためには才能より運+世渡りのうまさって感じですよね~。天才よりも要領がいい人のほうが、美味しい人生を歩めるのです。
メリッサ・マッカーシーもリチャード・E・グラントも、ほんといい役者たち。グラントおじさまにオスカー獲ってほしかったです。
返信する
Unknown (すねこすり)
2019-08-29 19:52:54
たけ子さん、こんばんは☆
九州の雨も大変ですが、広島は大事なかったですか? 水害のない年ってないんでしょーかね?
この作品、まぁ、地味っちゃ地味だけど、良い映画だと思います。集客が見込めないと判断されたんですかねぇ。
たけ子さんは、十分才能お有りです! あんなに面白いレビュー書けるし、似顔絵も!
歴史を見ると、天才と呼ばれる人たちは概ね波瀾万丈ですよね。光が強いほど陰も濃いということでしょうか。
メリッサ・マッカーシー、イイ味出してます。身近にいたらちょっと大変かもだけど、嫌いじゃないわ。友だちになりたいくらい。
リチャード・E・グラントはやはり上手いですね。ステキでした。私もあんな友人欲しい…。2人がイヤミな書店の店員に逆襲して爆笑してるシーンとか、羨ましかったです。
たけ子さんのレビュー、お待ちしてます〜(^^♪
返信する

コメントを投稿

【あ】」カテゴリの最新記事