映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

オフィサー・アンド・スパイ(2019年)

2022-06-11 | 【お】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv76780/


以下、公式HPよりあらすじのコピペです。

=====ここから。
 
 1894年、フランス。ユダヤ人の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。ところが対敵情報活動を率いるピカール中佐は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。

 彼の無実を晴らすため、スキャンダルを恐れ、証拠の捏造や、文書の改竄などあらゆる手で隠蔽をもくろむ国家権力に抗いながら、真実と正義を追い求める姿を描く。

=====ここまで。

 世界史における有名な冤罪、ドレフュス事件をポランスキーが映画化。第76回(2019年)ヴェネツィア国際映画祭審査員大賞受賞作。

 
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 実話モノは扱うネタ(特に難病系)によっては見ないけれど、歴史系は割と見る方かなぁ。本作は、ポランスキーの監督作品なので劇場まで行ってまいりました。

 ちなみに、本作はヴェネツィアで賞を獲っているのだが、これが物議を醸したことでニュースになりました。なぜ物議を醸したか、、、って、そりゃ、ポランスキーのあの事件があるからです。……が、ひとまず感想から。


◆ポランスキー、凄い。

 ポランスキー監督作は好きな映画が多いし、『戦場のピアニスト』は、私のベスト5に入る一作なので、本作も公開を楽しみにしていた。……のだが、内田樹氏(学者としてちょっと??な発言が多い)が字幕の監修をしているのと、見に行く前に某紙の映画評がベタ褒めしていたのを読んでしまい、劇場に行くときにはかなり引き気味だった。

 けれど、いざ本編が始まったら一瞬も集中力が途切れることなく、2時間超にもかかわらずあっという間にエンドロール、、、。いやぁ、参りました。某紙の評は盛ってはいなかったのだ。さすが、ポランスキー。『戦場の~』ほどの熱量は感じなかったが、品があるのにエグさ全開という二律背反を冷徹に実現させていて、凄いとしか言い様がない。

 とにかく全編、細部に至るまで隙が無い。役者の演技は言うに及ばず、美術、衣装、演出、音楽、、、、ポランスキーは妥協しない人らしいが、本作でもそうだったのに違いない。映像は、ため息が出るほど美しい。

 本作の主人公は、冤罪の被害者ドレフュス本人ではなく、彼の無実を図らずも知ってしまったピカール中佐。ポランスキーが巧みなのは、このピカールを完全無欠な正義漢として描いていないところ。40歳過ぎて独身で人妻と不倫しているし、ユダヤ人差別を自覚している。けれど、軍人として職務には忠実で、だからこそ、ユダヤ人であるドレフュスを冤罪から救うために奔走する姿は、決してドレフュス個人に対する感情的なものではなく、軍を誤らせてはならない、法に忠実に行動するという彼の行動原理からくるものであることの説得力が増すのだ。

 しかも、ラストがダメ押し。どうダメ押しなのかは、敢えてここには書かないが、これは賛否が割れるところだろう。一瞬呆気なくも感じるが、私はこのラストによって、本作は実に人間臭い、しかし、極めて上質で大人の映画に仕上がったと感じた次第。ピカールの描き方に、ポランスキーの意図が如実に表れていると思う。エンドロールをこれほど余韻に浸って眺めた映画は、それこそ『戦場の~』以来ではないだろうか。

 強いて難を言えば、説明的な回想シーンが多かったことかな。ポランスキー映画では珍しいのではないか。

 全編、極めて冷静で、音楽も少なめ、衝撃的な映像もないし、内容としては実に渋い。登場人物もほぼ中高年男性ばかりだしね、、、。実話をネタにした情緒溢れるエンタメを期待して見に行くと、かなり肩透かしを喰らうだろう。でも、ドレフュス事件についてはきちんと分かるように描かれているし、後半は裁判がメインになるが展開も速いので、脳みそは終始フル回転となること必至。

 これは、見ないと損、、、とまでは言わないが、見て損はない映画だと思う。


◆豪華キャスト

 ピカールを演じたのはジャン・デュジャルダン。私はこの方の出演作は『英雄は嘘がお好き』を機内上映で見始めて途中でリタイアしただけで、話題になった『アーティスト』を始めとしてまともに見た作品は1つもない。コメディ出身とのことで(フランス人俳優に多いですね)、パンフのインタビューで「コメディは筋肉のようなもので、本作は骨に近いもの」と言っている。

 ドレフュスを有罪にするために文書を捏造したアンリ少佐は、途中からピカールの部下になるのだが、このアンリとのやり取りがいちいち引っ掛かるシーンになっている。2人とも言ってみれば軍にどっぷり浸かった人間なのだが、対照的なのだ。アンリは軍の面子のためなら文書の偽造も平気でやる。結局、偽造は明るみになり、アンリは自殺するのだが、、、。

 そのきっかけとなったのが、何と、ピカールとアンリの決闘である。しかも拳銃ではなく、剣での決闘。本作では分からないが、史実によれば、これはピカールが申し込んだ決闘らしい。これにピカールが勝ち、アンリが敗れたことで、アンリは文書偽造を告白し自害した、、、という描写になっていた。この決闘シーンも、実に見ごたえのある素晴らしいシーン。

 ドレフュスを演じたのは、ルイ・ガレルなんだが、全然ルイ・ガレルって分からない容貌になっている。投獄された後はますます分からない。しかも、出番がとっても少ないので、彼を目当てに見に行くとガッカリするかも。オープニングに注目、、、かな。

 その他、胡散臭い筆跡鑑定人にマチュー・アマルリック、ゾラの弁護士にメルヴィル・プポー、ピカールの友人弁護士にヴァンサン・ペレーズ、、、等々。ヴァンサン・ペレーズ、ちょっとしか出てないけど、相変わらずイケメンやった。ピカールの愛人をポランスキーの妻エマニュエル・セニエが演じているが、女性の登場人物はほぼ彼女だけだ。終盤、ドレフュスの妻らしき人が裁判の傍聴人で映るけど、、、。

 軍関係者の登場人物が多く、しかも皆制服を着ていて、上官の見分けが付きにくいというのが難点かな。でも中盤くらいになれば分かって来る。フランスは、軍服までオシャレやね、、、。


◆嗚呼、ポランスキー。

 ヴェネツィアの授賞式では、ポランスキー作品が評価されることに、一部の人たちが抗議の意を示すために退場したとか。その一人はあのアデル・エネルだ。「恥を知れ!」と叫んで退場したという。そのほか、フランスの有名な女性ジャーナリストとかもいたらしい。

 アデル・エネルは好きな女優さんで、彼女ならそういう行動をするのも不思議ではないな、と思う。でも、私は、ポランスキーの映画も好きなので、正直なところ、股裂き状態である。

 抗議したくなる気持ちも分かる。私も、もし、ポランスキーの映画が好きじゃなかったら「だから、やっぱり、、、」と思うだろう。少女淫行事件の真相は分からないけど、ナタキンとの関係も考えれば、おそらくそういう事実があったのだろう。時代が、、、とか、そういう言い訳は通らない。

 先日も記事にしたが、淫行じゃないけど、プーチン支持に回ってしまったクストリッツァの監督作品も、私は好きなのだ。だからと言って、クストリッツァが今していることにはゼンゼン共感できないし。

 監督の過去と作品を切り分けることはアリなのか、ナシなのか。今も私の中で結論は出ていない。ポランスキー作品もそう。『アンダーグラウンド』も『戦場のピアニスト』も、私の映画歴の中ではなくてはならない作品。とても、封印することはできそうにない。

 ネット上では、本作について、「ポランスキーの言い訳にしか思えなかった」といった感想もあったし、「ポランスキーが監督だから見たくない」というのもあった。見たくなければ見なければ良いと思うが、本作がポランスキーの言い訳というのは??である。まあ、その人がそう感じたのだから、それを否定する気はないが。

 パンフにはポランスキーのインタビューも載っている。彼もユダヤ人で迫害の被害経験者として、少女淫行歴がある者として、インタビュアーの質問にこう答えている。

「このような映画を作ることは、私にとって大きな助けになっています。(中略)私に嫌がらせをするほとんどの人は、私のことも知らないし、事件のことも全く知らないのです。」
「~(略)~マスコミはこの悲劇(<筆者注>シャロン・テート事件のこと)を掌握し、どう対処していいかわからなかったからか、(中略)私が悪魔崇拝を背景に彼女を殺した犯人のひとりであると暗に示したのです。彼らにとっては、映画『ローズマリーの赤ちゃん』は私が悪魔と結託していることを証明するものだったんです!(中略)私に人生で出会ったこともない女性が、半世紀以上前に起こったと思われる出来事を告発してくるなんて馬鹿げた話です。」
「(<筆者注>反撃したいと思いませんか?の問いに対し)なんのために? 風車に突進しようとするようなものですよ。」

 いずれにしても、ポランスキーの人生は、およそ常人ではあり得ないものだ。

 

 

 

 

 

 

 


我が国の文書捏造事件も時間が経ったら真相が明らかになるんですかねぇ。

 

 

 

 

 

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2 コメント

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Unknown (Lunta)
2022-06-13 16:19:56
すねこすりさんのレビューにそそられて早速この映画見に行っちゃいました。
ポランスキー監督、もう88歳になるんですってね、でも映画に老いはこれっぽちも感じなくて、イーストウッドよりすごい。音楽会の場面に本人もいましたよね。
この映画はノーマークだったので、紹介していただけて良かったです。
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Unknown (すねこすり)
2022-06-13 18:54:21
Luntaさん、こんばんは!
わ〜、嬉しいです♪ お仲間が増えたー(^^)
ポランスキーはイーストウッドほど量産しないけど、出す作品はどれもハイクオリティなので、本当に凄いと思います。
本人出ていたの、私気付かなかったんです(._.) 見終わって、ネット情報で知って、えぇ〜!って。
どこ見てたんでしょう。
どんな風に出てましたか?
DVDが出たら再見したいです。
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