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江戸時代の年賀状 - 駿河古文書会

(先日、頂いてきたモミジが庭で早速小さく紅葉した)

   江戸御屋舗万書状の控え・願書の控え
陽春の御吉慶尽期あるべからず御座候、殿様ますます御機嫌よく御超歳遊させられ、恐悦至極に存じ奉り候、年始の御祝儀申し上げたく愚札を捧げ候、御序での刻(とき)、御執り成し仰せ上げられ下さるべく候、頼み上げ奉り候、なお、永春の時を期し候、恐惶謹言
 正月二十日              長源院
                     蘭庭 花押
     浅野中務少輔
         御用人中様
※ 吉慶(きっけい)- めでたいこと。祝うべきこと。
※ 尽期あるべからず-「尽期(じんご)」は「物事の尽きる時」期。手紙の常套句。吉慶の尽きることが決してない、つまり目出度いことが永久に続くと、寿ぐ言葉。
※ 超歳(ちょうさい)- 歳を越すこと。
※ 愚札(ぐさつ)- 自分の手紙をへりくだって言った。
※ 永春の時を期(ご)し-「永春」は「日の長い春」、日の長い春にお逢いすることを楽しみに、という手紙の常套句。


青陽の御吉慶、尽期あるべからず御座候、ますます御機嫌よく御超歳遊され、恐悦至極に存じ奉り候、右年始御祝儀申し上ぐべきため、かくの如くに御座候、なお永春の時を期し候、恐惶謹言
  正月              長源院
    松平六三郎様          蘭庭書印
※ 青陽 - 春の異称。特に、初春をいう。


上記、二つの文書は昔の年賀状のようなものであろう。常套句が並んで、内容にそれほど意味があるとは思えないが、実際の書状を控えておいて、後に続く人達の見本になったのだろう。日付を見ると、年末に年賀状を書くようなことはしていない。(当然のことだが)

陽春の御吉慶、尽期あるべからず御座候、殿様ますます御機嫌よく御超歳遊させられ、恐悦至極に存じ奉り候、歳朝の御祝儀申し上ぐべきため愚札を捧げ候、御前宣しく御執り成し、恐悦仰せ上げられ下され候、なお、永春の時を期し候、恐惶謹言
 正月廿日              長源院
                     ――
        六三郎様
     松平 源五之助様
        御用人中様
※ 歳朝(さいちょう)- 元日の朝。
猶以って新春の嘉幸、これより申し上ぐべきのところ、御請けに及び、恐れ入り奉り候、この段、何分宣しく頼み上げ奉り候
※ 嘉幸(かこう)- めでたいこと。よいしあわせ。
別啓、当正月三日、御代香のため、日下田定右衛門様、御仏参成り下され、なおまた御供養料、金弐百疋、お供え遊ばされ、御霊前において御回向申し上げ候、御序での刻、御前宜しく仰せ上げられ下さるべく、その刻、定右衛門様へ申し上げ候、御墓所石垣、春中にも仰せ付けられ下され候様、御談じの上、頼み奉り候、勿論先だって御運送の石預り置き申し候、追って御頼み申し上ぐべく候ところ、略儀ながら御願い申し上げ置き候
※ 別啓(べっけい)- 手紙などで、本文とは別に付け加える文の、冒頭に記す語。また、付け加えた文。追伸。
※ 代香(代香)- 代理の焼香をすること。また、その人。

     正月二十日         長源院
   浅野中務少輔様
            御役人中様
江戸御屋敷は飯田町餅ノ木坂下、浅野中務少輔殿、御内御用人方、相良直右衛門、川崎彦兵衛、玉置清左衛門、横川孫右衛門、田中官兵衛
  勝手御用人、日下田定右衛門、子正月三日山脇へ御代参也
  御家老 川崎八右衛門

松平六三郎様用人中へ猶々書き
なお以って新春の嘉幸、これより申し上ぐべく候処、御請けに及び恐れ入り奉り候、了諦院殿御霊前へ、当春の御茶湯金百疋、御備え遊ばされ、忝く受納仕り候、宜しく御取り成し下さり候様、頼み奉り候、以上
※ 茶湯(ちゃとう)- 仏前や霊前に供える煎茶湯。禅家では忌日などに仏前に供える茶と湯をいう。子供のころ、その日一番のお茶を仏壇に供えたが、そのことを「おちゃとう」と呼んでいたことを思い出す。


最後の長い一文は年賀の後に、猶書き、別啓、猶々書きと文が追加されている。この文書を出したのが、正月二十日で、正月三日には御用人の代参ながら、新年の挨拶を先に受けている。「御請けに及び恐れ入る」と、2度も同じ文が見られる。

ここでいう墓所とは、浅野中務少輔が駿府城代で赴任した際、伴なっていた奥方が駿府で亡くなり、長源院へ葬られていた。その墓所のことである。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
はじめまして (安井 真守)
2017-01-01 20:07:51
個人的に、江戸時代の言葉遣いに興味があって調べていたので、この記事はとても勉強になりました。
 
 
 
今後ともよろしく (きのさん)
2017-01-01 23:18:11
ずいぶん昔の書き込みですが、参考にしていただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いします。
 
 
 
はじめまして (ゆず)
2018-11-06 15:08:14
江戸時代の年賀状が今も残っているとは面白いですね!こちらの書状はどこに所蔵されているのですか?
 
 
 
Unknown (きのさん)
2018-11-09 00:09:24
古文書講座で扱われたもので、多分長源院に、控えとして残っていたものと思われます。
 
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