平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
日本左衛門騒動記 14 日本左衛門一味捕り物の事(前)

日本左衛門騒動記の解読を続ける。
先ず壱番に、小林岡右衛門、続いて小林藤兵衛、この両人釼術の達人にて、その時の装束は、南蛮鎖を着込みにして、和泉守金定の脇指に、肥前守忠廣の刀を家来に持たせ、壱番に内に入り、かの悪者どもは大蝋燭を燈し、今を盛りと勝負を争い余念なく居たる所へ、取り手の両人、日本を目がけ、御上意なりと呼ばわって飛び込む間に、蝋燭を吹きけし、早業の機転勝れし日本は、横手の壁をつきぬいて、行衛知れずに逃げ失せたり。
※ 南蛮鎖(なんばんぐさり)- 南蛮鎖を使った鎖帷子。防御用に着込む。防弾チョッキの刀用と考えればよい。
日本左衛門、壁をつきぬき取り逃したりと、高音に呼ばわりければ、裏表の人足ども皆一同に声をあげ、それ逃すなと謂う声に、町内近所目を覚まし、何事成るかと驚き騒ぐ所へ、御上意の捕り手方と聞いて、それよりなお、町中大騒ぎ、燈灯、松明、星のごとく、男たる者残らず出、その近辺、小道、畑中、井戸、雪隠、物陰、木の下、堵手(どて)、井溝(いみぞ)、残らず皆々尋ぬべしと、下知の下る。
※ 高音(こうおん)- 大きな声。
その間に同類拾壱人、からめ取る。中にも頬白長次という奴は、片すみに隠れ居て、博奕場の金銀を暗まぎれにてかき集め、逃げ行く所を、小林藤兵衛飛び懸りて、追い伏せて縄掛けける。さて万右衛門家内は、近所、二階、縁の下、襖、物かげ、残りなく尋ねけれども、行方知れず。
宿役人へ申し付け、見附中残らず家捜し致すべきと、問屋・年寄、皆々付き添い、たんす、長持、小袖ひつ、桶ひつ、戸だな、薪部屋、井戸、雪隠に至るまで、尋ね捜せど見えざれば、縄付きの内、鬼長兵衛、小随源八、万右衛門を引き出し、汝ら日本が同類たる事、殊に博奕の宿など致し、甚だ以って科(とが)重し者ながら、今取り逃したる日本が行衛を尋ね出すならば、その科を許すべし。若しまた隠し置くに於いては、その百層倍のとが成るべし。
※ 問屋・年寄 - 宿役人には、問屋役を筆頭に、年寄、帳付、人足指、馬指、迎番などがいた。
※ 小袖櫃(こそでひつ)- 小袖を収納した蓋付の大型の木箱。
如何心意候と申しければ、三人口を揃えて、我々ども一命を御助け下されば、山海の底峰までも、命かぎりに尋ね出し、御手に入れ申すべしと、慥に受け合い申すにより、三人は縄を許し、早速その夜中に大草太郎左衛門殿役所へ、人足五拾人申し遣わされ、右三人の者どもに案内致させ、日本が常々入り込む村々へ尋ねにこそは行きにける。
※ 心意(しんい)- こころ。精神。
※ 大草太郎左衛門 - 代々、見附、中泉代官。
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