平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
ソメイヨシノとヤブキタ
今年も桜の季節が過ぎた。今年はわりあい長く桜が楽しめたようだ。この「桜」に、大半の人は雲のように咲きそろうソメイヨシノを思い浮かべる。実際に、日本の桜の8割はソメイヨシノ(染井吉野)である。江戸時代に江戸郊外の染井村で、エドヒガンとオオシマザクラの交配で出来た品種といわれている。全国へ広まったのは明治以後である。
桜の名所といえば昔から吉野山。吉野山の桜は参拝者が奉納して植えたもので、西国に多いヤマザクラが主だといわれる。交配した中にヤマザクラは入っていないのに、ソメイヨシノにどうして「吉野」という名前が付いたのか疑問であった。最近読んだ本の中で、ソメイヨシノの命名は明治になってからで、それまでは「吉野桜」と呼ばれていた。新品種を売り出すとき、桜の名所の「吉野」にあやかって「吉野桜」と付けたとあった。商魂のたくましさがなせるわざである。
ソメイヨシノは挿し木や接木の定着率が良く、苗を簡単に大量に準備出来、植えれば20年ほどで成木になって、見栄えの良い木になる。明治になって、行政が手っ取り早く緑化するのに大変便利な木であった。そのため、東京発で全国に広まった。
このソメイヨシノと似ているものに、お茶の品種のヤブキタがある。ヤブキタは杉山彦三郎氏が藪の北の茶園で変異して出た良い芽を出す枝を挿し木で増やしてきたものである。ヤブキタも全国で生産しているお茶の8割をしめるほど普及した品種である。早く芽が出て、優良な茶葉が収穫できるとして、今ではヤブキタ以外の品種をなかなか植え難くなっている。
ソメイヨシノとヤブキタは類似点が多い。ソメイヨシノもヤブキタも挿し木で増やした、今風に言えばクローンで、実生の木は一本もない。その優秀さから桜やお茶の代名詞になってしまっている。
シェアの高さは弊害になっている部分もある。ソメイヨシノは寿命が50~70年という。クローンゆえの短命で、戦後にできた全国の桜の名所で、一斉に寿命が尽きていくのではと心配されている。またヤブキタも30~40年といわれる茶樹の植え替え時期に来ている。しかしヤブキタを凌駕する品種がなくて困っている。優良すぎるのも良し悪しだという良い例である。
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