時々書いていますがジョコビッチはテニス史上最強の選手だと思っています。ロッド・レーバーとかビル・チルデンとか、オープン化以前のレジェンドとは比較が難しいですが、オープン化して以降のテニスでは、主要の記録を次々と塗り替えていくジョコビッチ最強説は間違いないでしょう。ただいくらジョコビッチが最強であっても、やっぱり最高のテニス選手はフェデラーだという意見に頷くテニスファンは世界中にたくさんいると思います。フェデラーの登場で男子テニスのレベルは一気に階段を飛ばして上がりました。
この「最強」と「最高」の違いの説明は主観的になるので難しいですし、同時代の人にはわかってもらえても、恐らく20年後のテニスファンからしたら記録だけ見て、ジョコビッチがフェデラーを上回っているからジョコが最高じゃないの?と言われることも十分予想できます。僕は同じことを王貞治と長嶋茂雄で見ているからです。彼らの現役時代を知らない今の中年以下の世代は、長嶋の人気の高さを不思議に感じ、なぜ王じゃなくて長嶋なんだろうと思っている人が多いです。
王はまさに日本プロ野球で「最強」の打者です。記録を見ればずば抜けています。そして同時代の長嶋は記録的にも素晴らしい成績を残してはいますが、王にはかないません。でも、全盛時の長嶋を知る野球ファンにとって「最高」は間違いなく長嶋であったと、ほとんどの人が証言すると思います。みんな憧れたのは長嶋で、アンチ巨人はいてもアンチ長嶋はいないと言われたスーパースターでした。単に長嶋が陽キャで王が陰キャだったからではありません。長嶋はプロ野球に「見せるプレー」を持ち込み、華やかで明るいスポーツとして、それまでの日本の野球のイメージを大きく変え、ファンの裾野を広げました。長嶋以前と長嶋以降で日本のプロ野球には分水嶺があります。
そして大谷翔平です。今日も「なおエ」でしたが投打に活躍しました。今やレジェンド級のスーパースターです。でも記録だけで見れば大谷の記録は歪です。ベーブルースと比較するような二刀流の記録は数多いですが、王道の通算本塁打数とか通算安打数とか通算勝利数とかでメジャーのトップクラスになることはないでしょうし、主要タイトルだってまだひとつも取っていません。今年本塁打王を獲得したとしても、後に記録だけで判断されたら、もっと上の選手がいくらでもいると言われることでしょう。
でも今現在、大谷を見ている我々は、大谷の野球選手として「最高」の部分を見て知っています。投げても打っても走っても超一流で、なおかつ性格も明るく礼儀正しくお茶目の部分もある、そして何よりこれまで見たことがなかった質のプレーで時代を変えた革命児です。フェデラーも長嶋もそうでした。テニスや日本野球に革命的な変化を起こし、レベルを一気に引き上げ、ファンを爆発的に増やしたから「最高」と呼ばれているのです。ジョコビッチも王も、フェデラーや長嶋が切り拓いた道を歩んできて最強になったのです。
大谷に不満があるとしたら、エンゼルスにいることだけです。二刀流を認めてくれた恩義はあるにしろ、これだけ勝てない目立たない球団に「最高」の選手がいるのはもったいないです。いよいよエンゼルスのプレーオフ進出も危うくなってきました。このままでは大谷をトレードしなかったことがエンゼルスにとって最悪の結果を招きそうです。やはり最高の選手は最高の舞台で輝いてほしいと思います。