はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

虎の子が鳴った

2014-05-25 22:06:23 | はがき随筆
 1月初め、阿久根市のホームセンターで65歳以上の専用カードを更新した。カードで購入すると、総額の5%を返金してくれるのだ。海が近いから鮮魚がよく並ぶ。その日はまるまる太ったサバとマダイを買った。園芸コーナーでは県内産35万年前の貝化石粉を発見、我が家の微生物畑に35万年前の微生物を仲間入りさせようと購入した。
 返金レジには男女4人が並んでいた。見ると、小銭がしっかり準備してある。私に返金された68円が手の中で鳴った。歩きながら、拾い集めた地金を売って得た少年の日の虎の子の小銭を思い浮かべていた。
  出水市 中島征士 2014/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載

パソコン診断

2014-05-25 22:01:06 | はがき随筆
 私の持病は、高血圧と不整脈である。血圧の治療は市内の医院に行くが、最近は娘の女医さんが診察してくれる。
 50代の彼女の趣味は古美術のようで、話題が豊富である。時々、仏像などのことを聞かれて会話が弾むこともある。
 一方、不整脈の治療は、市外の総合病院に約2ヶ月に1回通院している。採血をしたり、時には心電図を取ったりして、最後に主治医の診察を受ける。「お変わりありませんか」と笑顔で迎えてくれるが、後はパソコンを打ちながらの診察である。
 確かに、私の病状はパソコンの中にあるのだ。
  志布志市 一木法明 2014/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

ささやかに

2014-05-25 21:55:35 | はがき随筆
 航空ショーを見に行き、縦横無尽な動きに衝撃を受けた。頑張らなければとの思いに駆られた。震災の復興もままならない宮城県の松島基地から飛来したブルーインパルス6機。小柄でシャープなブルーの機体は大空をキャンバスに自由自在にアートを描く。過酷な訓練を経ての技術であるのは重々承知の上で自分の手足のように操れるとは驚き。翌朝4時に目が覚め、スイッチが入ったかのようにスニーカーを履き外に出る。まったく予定してなかったこと。校庭をウオーキングとランニングで大回りすること5周。私もささやかに頑張ってみよう……。
  垂水市 竹之内政子 2014/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

まず今日を

2014-05-25 21:48:55 | はがき随筆
 「はい、○○ですが……」。えっ、まさか本人! とっさに電話を切ってしまった。私のことが分からなかったら、どう対処していいか動揺したからだ。先日、何十年かぶりに訪ねた私に、彼の奥さんは「ごめんなさい。どんなにか考えたんだけど、夫の良いときだけを覚えていてほしくて……」と、彼に会うことを固辞した。私より年下の彼が若年性認知症。息子の顔も分からないという。風貌がどことなく歌手の前川清さん似の彼……。人生のゴールが見え始め、最近ひどく落ち込む。落ち込んで、落ち込んで……。まず今日一日を生きようと思う。
  霧島市 久野茂樹 2014/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載