はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

猫の慕情

2014-05-10 16:03:40 | はがき随筆


 私の弟が中学の頃、猫を飼っていた。その猫を友が欲しがるので渡した。友の家は遠方にあり、猫はボール箱に入れ、連れていかれた。その道のりを猫は知らない。友は大変可愛がったと思う。なのに、猫は弟を思い出し、ある日、そっと家を出た。草木の多い田舎道を夢中に歩き、見慣れた景色の前で立ち止まった。「確かこの辺り」
 その時、散歩中の弟と出会い、「あっ、この人」。走り寄って何か言いたそう。「どうしてここが」と弟。すると猫は歌詞にある「ここ、ここがいいのよ あなたのそばが」と思ったか、すり寄って慕情を吐露した。
  肝付町 鳥取部京子 2014/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載

祁答院讃歌

2014-05-10 15:54:36 | はがき随筆
 白鳥が浮かび、浮島で知られる藺牟田池は祁答院町にある。
 この湖畔で、在職中、山崎中の生徒たちと一日遠足をした思い出が懐かしい。祁答院町は自然や歴史の豊かな町である。
 特色を盛り込んだ祁答院町の歌の作詞をした。作曲は「はがき随筆」の仲間の紹介で、Yさんに依頼。歌はいつも頼りにしている合唱団の2人、由紀子さん、魅歌さんという方に、多忙中、引き受けてもらった。
 7月13日、祁答院町で「祁答院讃歌」という作詞曲を披露させてもらう予定。もし町民の方に少しでも喜んでもらえるならこんなにうれしいことはない。
  出水市 小村忍 2014/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

たんぽぽと少年

2014-05-10 15:18:06 | はがき随筆


 施設に入所している母の見舞いに行き、バス停で待っていると、中学生くらいの少年が両手に何か大切なものを携え、通り過ぎようとした。のぞき込むと、白い綿毛が指の間から見えた。それは小鳥の生毛にも見え、落下したひな鳥でも助けたのかと思った。なんと、タンポポの綿毛だった。それが飛ばないよう、宝物かのように手で囲っていたのだった。少年の優しさがいとおしく、まぶしく映る。路地に咲き、春の訪れを知らしめるかれんな黄色い花を見ると、「たんぽぽ」の歌詞がメロディーとなり流れ、この純粋な気持ちを忘れないでと、ひたすら祈る。
  鹿屋市 中鶴裕子 2014/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな同窓会

2014-05-10 15:11:57 | はがき随筆
 心地よい春の風にこいのぼりがぼつぼつ泳ぎ始める日。小学校の同窓会に出席した。サヒカブイに会う顔は、当時の面影はない。あのビンタはツルツルに輝き、モジョかった少女はダイサァ? 複雑な思いで宴が進むうちに、一瞬にしてセピア色に変わり忘れかけていた物を、心の引き出しから取り始めた。道草食い、黒板消し落としなど懐かしい話は尽きない。「ジャッタ、ジャッタ」と花が咲いた。何もかも便利で物の豊かな時代になったが、失った物は大きい。でもあの頃のワレコッポとおかっぱ少女の心優しい性格は変わらず出チット安心した。
  さつま町 小向井一成 2014/5/5 毎日新聞鹿児島版掲載

鵜家さんに記念の盾

2014-05-10 14:39:50 | 受賞作品


 2013年の鹿児島版「はがき随筆」の年間賞の表彰式が20日、鹿児島市の市勤労者交流センターであり、毎日新聞鹿児島支局から鹿児島市武、鵜家育男さん(68)に記念の盾がおくられた。選考対象は1月1日付~12月31日付のはがき随筆。
 受賞作「寝付けない夜」(8月31日掲載)は、自宅近くの子どもの頃から利用する銭湯での高齢の夫婦の印象的な出来事を題材に夫婦の在り方を描いた。
 02年から投稿を続ける鵜家さん。退職した今は、3人の子どもや孫に「生きざまを残したい」と投稿に力を込める。受賞作については「光景が目に焼き付きペンを取った。感動をありのままに伝えたいと思った」と振り返り、「随筆歴12年での受賞で大変うれしい」と喜んだ。
 また、はがき随筆の選者、石田忠彦・鹿児島大名誉教授が文章表現について講話。「素直に感動したことだけを書くと効果がない。意外な展開を入れると文章の魅力が出る」とアドバイスした。
 この後、毎日ペンクラブ鹿児島(若宮庸成会長)の総会もあり、14年の事業計画などを話し合った。
  鹿児島支局 杣谷健太記者 2014/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

つもり貯金

2014-05-10 14:33:18 | はがき随筆
 500円溜まっている。入れると30万円たまるという貯金つぼをもらった。パート代は子供へ仕送るので、慰めに買い物をしたつもりで時々ぽとんと缶に入れ数年が過ぎた。就職すると結婚出産。母も介護が必要。気合い入れに立山登山に飛びついたのは15年前の夏。頼みの旅費は貯金壺で十分だった。仲間と憧れのアルプスへ。3000㍍から見下ろす絶景はコルクの栓がポーンと抜けるような開放感がたまらない。落ち込んでも押し上げてくれる山の魅力に感謝しながら苦難を乗り越えられたと思う。願わくばみくりが池温泉にもう一度とつもり貯金を続けている。
  薩摩薩摩川内市 田中由利子 2014/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

一刻も早い救助を

2014-05-10 14:13:54 | ペン&ぺん


 韓国・珍島沖で起きた旅客船「セウォル号」沈没事故。修学旅行生を乗せたまま、いまだ多くが行方不明。私も中高生の2人の娘がいるので、ニュースで荒れた現場の海や政府関係者に詰め寄る保護者を見ると、いたたまれない。なかなか進展しない救助をもどかしく感じている人も多いはず。一刻も早い救出を祈るばかりだ。
 鹿児島も錦江湾をはじめ、県本土と甑島、奄美群島などがフェリーや高速船で結ばれていて、今回の事故はひとごとではない。
 事故後、本社から支局に「セウォル号はかつて鹿児島で就航していた。調べてほしい」と連絡があった。「エッ! まさか」。早速、支局記者が以前この船を所有していたフェリー会社(本社・奄美市)を訪ねると、担当者がきちんと取材に応じてくれた。東日本大震災後、「想定外」「まさか」という言葉はもう通用しない、言い訳にならない――ことを私たちは学んだ。肝に銘じなければならない。
 それから、海上保安庁や自衛隊が持つ海難救助隊を派遣できないのか。誰もが舌を巻く猛訓練に耐えた隊員たちが海中だろうが、荒れた海上だろうが、救助に向かうシーンをテレビで見た。映画「海猿」では鹿児島で大型フェリーが沈没、隊員が命がけで救助する姿を描いたシーンが記憶に新しい。私たちがひとたび乗船したら海の男、女たちに命を預けるわけだから、今事故を教訓に万全の対策を講じてほしい。
 さて、27日は衆議院鹿児島2区補選の投票日。全国注視の選挙であることは県民の皆さんも充分ご存じのはず。とりわけ農業県の本県は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を避けて通れず、選挙区は異なるが九州電力川内原発(薩摩川内市)の再稼働問題は全国民の関心事。6候補の考えに耳を傾け、2区の有権者は1票を投じてほしい。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 毎日新聞鹿児島版掲載

入学式

2014-05-10 12:41:38 | はがき随筆
 新しいランドセルの匂い、新しい教科書のインクの匂い、新しい机の香りが漂う。新一年生。にこにこと笑顔が教室いっぱいに広がった。新しい担任にも満面の笑みがこぼれる。保護者も我が子に目を注ぎ、クラスは入学式の明るい雰囲気に包まれた。あどけない。むつまじい。学業の扉が開いた「大きな夢を抱き希望に膨らんで」未来の空へと羽ばたき、学習の道へと一歩一歩と歩を進める。険しい山、谷や凸凹の障害の壁には精を込めベストを尽くそう。孫息子の入学式に、懐かしい私の入学式が思い重なった。母は海、海は広い。海は光る、母は強し。
  姶良市 堀美代子 2014/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

孫娘と一緒に

2014-05-10 12:29:40 | はがき随筆


 姶良市に住む一人っ子の孫娘は、両親が働いているので、冬休みや春休みなど、長期休業中などは何をして過ごしているのか気になる。
 彼女は今年4月から6年生になるが、変わらず「ジージ」「バーバ」と言って甘え、遊びに来る度に、必ず私どもどちらかの布団に潜り込んでくる。
 春休みに、旅行会社のツアーで東京、鎌倉、箱根などの観光に3人で行った。ところが、彼女の楽しみはスカイツリーでも大仏さまでも富士山でもなかった。彼女の楽しみは、飛行機と観光バスに乗ることだった。
 夏休みはどこに行こうか。
  志布志市 一木法明 2014/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載

青春は遠くに

2014-05-10 11:37:36 | 岩国エッセイサロンより
2014年5月 9日 (金)

岩国市  会 員   吉岡 賢一

 急な傾斜に両足を踏ん張り、タケノコを掘る鍬のさばきも年々上手になってきた。皮をむき、大きな平釜でゆでる段取りも阿吽の呼吸で進んでいく。バーベキュー用の野菜を刻む音も心地いい。同級生男女10人が年に1度集まる「藪の中のクラス会」。13回を数えた。
 「あんたはあの人が好きじゃったろうがね」。そんな無遠慮な思い出話から、今では体の不調を訴える話題が主流になってきた。わがままも出始めた。
 さてあと何回続くのだろう。いつしか青春は遠くなりにけり。
 頭の上でウグイスが鳴く。
  「ボー、ボケないで!」と。
  (2014.05.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載