はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ICUにて

2008-05-06 22:37:16 | はがき随筆
 音のない世界。視界も天井だけ。たくさんの器具につながれ10日間。我慢も限界。「死なせてくれ」「殺してくれ」と声は出ない。紙に書いてスタッフへお願い。それでは最期の水をとスタッフが交代で水をふくませる。いよいよ死ぬんだな。とたんに体がゆっくりと楽になった感じ。しばらくして左足が動くのに気づく。そして考えることができる。やっと死に水取りが芝居だと分かった。命をもらって一般病棟へ。生きていて良かったと実感。皆さんのおかげ。妻が手を握りしめ「良かったね父ちゃん」と。涙ながらの顔が忘れられない。
   薩摩川内市 新開 譲(82) 2008/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載