書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

エミール・ゾラ著 川口篤/古賀照一訳 『ナナ』

2014年04月29日 | 文学
 ゾラは、自然主義の代表的作家とされている。彼の理論は『実験小説論』につぶさに説かれているが、当時の科学万能的風潮を反映して、科学的芸術批評家テーヌや実験医学の提唱者ベルナールの思想を多分に取り入れている。 (「あとがき」本書715頁)

 『実験小説論』は読んだことがない(これから読むつもり)が、『居酒屋』もそうだが、この作品を読んで、梁啓超の「中国は多君の世であるのに、国家はすでに民主政治が行われているとか、すでに民主政治が行われているのに突然君主政治にもどるとかいうことは、公理に合っていない。幾何学に通じたものならきっとこの道理がわかるだろう」という言葉を読んだときと同じくらいのあほくささを感じた。
 ゾラは1840年生、1902年没。梁啓超は1873年生、1929年没。自然主義思想が西から東へ伝播する時間を考えにいれれば、ほぼ同時代人といっていい。梁の師匠の康有為(1858年生、1927年没)にもこの傾向は認められるし、これはやはり、訳者子の言うように時代の風潮だったのだろうか。

(新潮社 2006年12月)