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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

井上辰雄 『平安儒者の家 大江家のひとびと』

2015年12月27日 | 伝記
 江家歴代の人々の生涯と業績があとづけられ評価されるのだが、彼らの漢文(文言文・古代漢語)の能力は、それは見事なものだったらしい。彼らの遺した詩文にかんする文法的な問題についての指摘はまったく見られない。このうえに文体論的な面からの分析があればなあと、勝手な望みを抱きつつ拝読した。
 赤染衛門が掉尾を飾っている。大江匡衡の妻、大江挙周の母。

(塙書房 2014年3月)

高村直助 『小松帯刀』

2015年06月05日 | 伝記
 帯刀の死因は左下腹部にできた腫瘍らしい。若い頃から――享年も三十六(数え年)と若かったが――、多病だったそうだけれど、それでも剣は示現流を修めているし、馬術にも研鑽を積んで、後年京都では名人と言われた由。

(吉川弘文館 2012年6月)

岡本隆司 『袁世凱 現代中国の出発』

2015年03月16日 | 伝記
 岡本氏の著作研究にはこれまでも学ばせて頂いてきた。

 康有為なる人物を一言で表現するなら、思想家というべきだろう。しかも重厚深奥な思索者ではなく、既成理論をあてはめるタイプの知識人に属し、性格はむしろ軽薄とみたほうがよい。 (本書79頁)

 ひどい(笑)。しかし此処に限らず、この書は最初から最後まで、いや章立ての名からして既に、自分一個の見識のみに拠ってものを言うという筆者の気概が充ち満ちている。「嫌いだけど書きました。書き終わってもやはり嫌いです」(要旨・「あとがき」)などとは、生半な心構で公に口できるものではなかろう。

(岩波書店 2015年2月)

松田美智子 『サムライ 評伝 三船敏郎』

2014年12月10日 | 伝記
 三船敏郎とは、ある意味西郷さんのような存在だったのだなとの感想。ならば黒澤明は島津斉彬か。
 だがそれにしても、対象とその周囲を前後左右上下裏表から目配りもきめ細かく眺める筆者の目、人や事の真相を見極めようとする意思の持続、しかし取材者であると同時に人間として取材対象への思いやりと礼節とを失わない自制、結果として、覗き趣味の微塵もない、均整の取れた、見事な評伝に。

(文藝春秋 2014年1月)

吉田光 「西周 啓蒙期の哲学者」

2014年11月29日 | 伝記
 朝日ジャーナル編『日本の思想家』1(朝日新聞社 1962年9月)所収、同書105-120頁。
 再読

 『百一新論』の特色と意義は、〔略〕「法」(法律)と「教」(道徳)のもとづくべき「理」(法則)の観念の分析に進み、これまでの東洋的な「道理」の観念のあいまいさを批判して、「物理」(自然法則)と「真理」(人間界の法則)の区別を論じている点にある。/これまでの儒学では、この両者を混同していたために、事物について実証的・合理的な見方、考え方を徹底することができなかった。東洋で実証科学の発達がおくれた原因の一つもそこにある。したがって、ここで西が行った「道理」の観念の分析は、同時に伝統的な考え方の欠陥に対する根本的な批判でもあった。 (114頁。引用は1963年10月第4刷から)