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日本の教育はそんなに悪くなく、そこそこ良いという

2021-02-11 20:29:22 | 読書ノート
小松光, ジェルミー・ラプリー『日本の教育はダメじゃない:国際比較データで問いなおす』 (ちくま新書) , 筑摩書房, 2020.

  教育学。文科省やOECDなどによる国際調査の結果を比較して、日本の教育が世界でどの程度の位置にあるかを説明する内容である。その結果、日本の教育はどちらかと言えば良いほうであることが示される。正確な診断がなされないまま「日本の教育は酷い状態にある」と先入観を持たれ、学校改革が急かされる風潮があるが、これに警鐘を鳴らすという面もある。著者二人は京大で知り合って共著論文を何本か発表している若手研究者である。

  二部構成となっており、第一部は事実の検証編。まず、TIMSSやPISAなどの国際学力調査をもとに、日本の子どもの学力が落ちているという通説を批判する。それによれば、暗記問題でも考える力を試す問題でも日本の結果は国際的にみて上位にあるという。続いて、国際テストの点がいいのは子どもが勉強漬けになって他の時間を犠牲にしているからだ、という反論に対して、国際的にみて日本人生徒の勉強時間が短いことや学校への満足度が高いことを挙げて再反論している。いじめや自殺の数も突出しているわけではなく、平均的である。全体的に日本の教育は悪くない、との評価が下される。

  第二部は、教育改革を急ぎ過ぎることへの警告となっている。日本の学校教育は、「詰め込み教育」としてイメージされることが多い。けれどもそれは間違いで、諸外国と比較してみると、日本の授業は考える時間をけっこう与えており、また多角的な見方が示されるものとなっている(似た話はクレハン著でも出てくる)。すなわち質が高い。なのにそれを捨てて、国際調査において日本より学力の低い英米の制度を参考にしたり、すでに米国ではブームが過ぎた「アクティヴ・ラーニング」なんかを取り入れようなどというのは倒錯だという。日本の教育の良いところを壊すべきではない、と強く主張される。

  以上。日本の教育についての正しい認識を迫る内容である。最近の教育改革反対論──広田照幸『教育改革のやめ方』とか石井英真ほか編『流行に踊る日本の教育』など──のなかでは、手に取りやすくかつわかりやすい書籍である。ICT教育をどうするのかなどの今後の課題についてはくわしくないものの、それは読む側の課題。教育をめぐる議論の出発点として非常に有益であり、教育談義に参加しようとするならば必ず本書で示された事実を踏まえるべきだと思う。
 
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