小熊英二『日本社会のしくみ:雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社現代新書, 講談社, 2019.
近年ではジョブ型/メンバーシップ型という概念で説明されるようになってきた日本の雇用制度の形成史である。米独などの雇用慣行との比較もある。新書ながら600頁もあるものの、著者の他の著作に感じることのある「無駄に長い」という印象はなく、コンパクトにまとまっていると言える。
本書は次のような歴史を描く。明治から戦前期にかけて、日本の大企業の雇用者は、上級事務員、下層事務員、現場労働者の三層構造だった。それぞれの学歴は大卒、高卒、中卒に対応したが、諸外国と異なり、学校で学んだ内容は問われなかった。また上級事務員のみ昇給と終身雇用が約束された。こうした三層構造は、政府における官僚組織や軍隊から影響を受けて形成されたと推測されている。
敗戦直後、上級事務員の生活が困窮するに及んで、彼らと現場労働者との同盟が可能となり、その結果企業別の労働組合形成が促された。一方で徐々に、上級事務員のみに認められてきた終身雇用と昇給(生活給)が現場労働者にも適用されるようになった。三層構造は解体されて、「労働者の平等」が実現したのである。ただし、その平等から女性労働者は排除されていた。
1970年代後半が日本型雇用慣行のピークとなる。以降最近になるまで、典型的な日本的雇用を提供できる大企業の正規雇用者の数は、労働人口の1/3ほどのまま変化していないという。残りは、中小企業と自営業者である。特に1980年代以降、大きく減少したのは自営業者で、その減少に相当する人口が非正規雇用者として台頭してきた。団塊ジュニアの問題とは、同年代の人口増加に合わせた大卒人口の増加に対応するほど、大企業正規雇用者枠の人数が拡大しなかったことによるという。
このほかさまざまな含意のある内容ではある。正規雇用者内での「労働者の平等」は一つの達成であり勝利の経験であるために、この点で日本的雇用慣行は大きく変わらないだろう、というのが著者の予想である。ならばどうすればいいのか、というところは日本社会の課題なのだろう。
近年ではジョブ型/メンバーシップ型という概念で説明されるようになってきた日本の雇用制度の形成史である。米独などの雇用慣行との比較もある。新書ながら600頁もあるものの、著者の他の著作に感じることのある「無駄に長い」という印象はなく、コンパクトにまとまっていると言える。
本書は次のような歴史を描く。明治から戦前期にかけて、日本の大企業の雇用者は、上級事務員、下層事務員、現場労働者の三層構造だった。それぞれの学歴は大卒、高卒、中卒に対応したが、諸外国と異なり、学校で学んだ内容は問われなかった。また上級事務員のみ昇給と終身雇用が約束された。こうした三層構造は、政府における官僚組織や軍隊から影響を受けて形成されたと推測されている。
敗戦直後、上級事務員の生活が困窮するに及んで、彼らと現場労働者との同盟が可能となり、その結果企業別の労働組合形成が促された。一方で徐々に、上級事務員のみに認められてきた終身雇用と昇給(生活給)が現場労働者にも適用されるようになった。三層構造は解体されて、「労働者の平等」が実現したのである。ただし、その平等から女性労働者は排除されていた。
1970年代後半が日本型雇用慣行のピークとなる。以降最近になるまで、典型的な日本的雇用を提供できる大企業の正規雇用者の数は、労働人口の1/3ほどのまま変化していないという。残りは、中小企業と自営業者である。特に1980年代以降、大きく減少したのは自営業者で、その減少に相当する人口が非正規雇用者として台頭してきた。団塊ジュニアの問題とは、同年代の人口増加に合わせた大卒人口の増加に対応するほど、大企業正規雇用者枠の人数が拡大しなかったことによるという。
このほかさまざまな含意のある内容ではある。正規雇用者内での「労働者の平等」は一つの達成であり勝利の経験であるために、この点で日本的雇用慣行は大きく変わらないだろう、というのが著者の予想である。ならばどうすればいいのか、というところは日本社会の課題なのだろう。