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安全・品行方正かつ経済活発な素晴らしき監視社会

2019-09-02 11:06:32 | 読書ノート
梶谷懐, 高口康太『幸福な監視国家・中国』NHK出版新書, NHK出版, 2019.

  現代中国のレポートでもあり、監視社会論でもある。報道でその名を聞いたことはあるけれども詳しいことはよくわからない中国の「社会信用システム」をめぐる報告と考察であり、そのメリットとデメリットをバランスよく伝える内容となっている。検閲制度にも言及がある。

  前半は現状レポートで、社会信用システムの詳しい解説である。中央の共産党政府が監視するオーウェル的なものではなく、民間企業による大規模システムか、または地方政府による小規模なものが複数並列しているという。それらが導入された事情だが、中国には個人の信用を保証する──金を貸してきちんと返す人か、あるいは仕事を任せて大丈夫な人か、など──仕組みが先進国ほど整っていない、この問題を克服すべく人物を点数化するシステムを構築しよう、というわけである。そのメリットは明らかで、かつては銀行に相手にしてもらえなかった層でも起業のための借金ができるようになり、また個人事業も活発になっているとのことである。おまけに都市生活におけるマナーも向上しているという。一方、地方政府による道徳信用システムはまだ実験段階で機能はしていないとのこと。

  後半はこの現状の評価で、これは先進国でもてはやされている選択アーキテクチャよる誘導の話(参考)とそう変わらないでしょ、と指摘される。一方で、新疆ウイグル自治区における厳しい監視の例(香港デモについては少々)も挙げられ、懸念がないわけではないことが指摘される。

  以上。個人的には、信用を点数化するシステムは、アルゴリズムが上手く設計されれば統計的差別を減らすはず(現状はそうなってはいないことに注意)、と感じた。すなわち、性別やエスニシティなどの属性ではなく、個人の能力や努力を評価できる指標として有効だろう。監視者を監視する、評価のアルゴリズムがわかる、というのが今後の課題のようだ。
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