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アーキテクチャの有効活用

2009-10-26 09:33:29 | 読書ノート
リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン『実践行動経済学:健康、富、幸福への聡明な選択』遠藤真美訳, 日経BP, 2009.

  前回の続き。今流行りのアーキテクチャ論では、アーキテクチャによる・合意の無い「自由の規制」が問題視されてきた。この本は逆の論陣を張る。アーキテクチャによる人々の行動の方向付けは、バイアス無き選択の自由がある世界よりも幸福を増大させることができる。なので、積極的に活用しましょうというわけだ。著者らは、この立場をリバタリアン・パターナリズムと称している。

  人々の行動をコントロールすることに対する肯定の根拠には、人はそれほど合理的には行動しないという行動経済学の知見がある。だが、そこは中心ではなく、多くの場合、個人が貯金に失敗したり、もっとも優れた年金プランの選択に失敗するということは議論の前提となっている。そこで、政府が最良の選択肢へと「誘導する」ように制度を設計しておけば、選択の間違いによる不幸を削減できる。もっと言えば、福祉プログラムなどにかかる費用を減らすことができると考えているようだ。

  疑問はたぶん誰もが思いつくもので、政府が事前に最良の選択肢を把握できる能力があるのだろうか、ということだ。しかし、本書で挙げられている例のように、政府がその能力を持つと言えそうな領域もあるだろう。公共図書館の存在理由も、僕の分野では長らく権利論で理解されてきたが、情報空間に対するアーキテクチャの一つとして把握した方が筋が通るのかな、という感想を、図書館屋として持つ。

  ただし、この本で言うアーキテクチャは『CODE』に出てくるような有無を言わさないものではなく、優先順位に関してバイアスを与えるという程度にすぎない。その推薦された優先順位を無視することは可能なので、かなり弱い「アーキテクチャ」概念である。
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