29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

戦争の要因についての議論を三つに整理した書籍

2015-07-06 17:01:04 | 読書ノート
ケネス・ウォルツ『人間・国家・戦争: 国際政治の3つのイメージ』渡邉昭夫, 岡垣知子訳, 勁草書房, 2013.

  国際政治学の古典。具体的にはなぜ戦争が起きるのかについての議論を整理する内容で、著者の博士論文を基にした書籍である。原書はMan, the State and War: A Theoretical Analysis (Columbia University Press, 1959)で、この分野では著名な本だったらしいけれども、邦訳はこの勁草書房のこの版が初めてである。

  著者によれば、戦争の要因についての議論には三つあるという。一つは為政者の人間性で、その征服欲やら悪意やらで戦争が起きるというもの。もう一つは国の体制で、資本主義体制だから、あるいはファシズム国家だからこそ戦争が起きるというもの。三つめは、国家間の関係が超越的裁定者のいない無政府状態だからこそ起きるというもの。先の二つの議論を退けてはいないものの、三つめがもっとも重要であると著者が考えているのは明らかである。「はじめに他者ありき」。というわけで、他国の状態を省みない平和主義の無効さ、ゲーム理論を使った分析の導入、勢力均衡の妥当性などが論じられている。

  仮説と今後の分野の方向性を提示するというのが本書の意義である。論証については、議論の材料がカントやルソーだったりして、選択がアドホックな印象である。この点で結論への同意を強力に迫ってくるような力強さはない。国際関係および戦争を考えるきっかけを提供するものとして読むものだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする