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資本主義経済においてバブルは基本だとするサブプライム危機の分析書

2014-02-19 12:14:48 | 読書ノート
竹森俊平『資本主義は嫌いですか:それでもマネーは世界を動かす』日経ビジネス人文庫, 日本経済新聞、2014.

  2007年に起きたサブプライム危機を説明しつつ、金融システムの在り方について考察するという内容。初版は2008年の発行であり、すでに高い評価を得ている。だが、理解にはマクロ経済学の知識が必要であり、まったくの初心者向けというわけではない。この文庫版では新たに「はしがき」が添えられている。

  全体では、景気を良くするためにはバブルも必要だということを認めつつ、過熱しすぎるとバブルがはじけたときの痛みが大きいので、世界経済全体が「低」成長化することが望ましいとの見解も採りあげている。ではなぜバブルが起こるのか。その大本には金融機関の信用創造機能があるが、そうした機関が保障する「信用」など無根拠なものである。そもそも何の価値の実態も反映していない紙幣で取引する貨幣経済は基本バブルによってできているのだ、と。

  それでは、2007年のサブプライム危機特融の条件はなんだろうか?2000年代のFRBの低金利や、リスクを証券化して幅広く分散させる金融技術の発達や、銀行に対する時価会計での自己資本比率規制や、発展途上国の貯蓄が自国に投資されずに米国に投資される現象など、いろいろな要因が重なったということである。これらの要因のいくつかには対策を立てることができるので、今回と似たような危機の発生を防ぐことはできる。しかし貨幣経済のメリットを活かそうとすると、恐慌を完全に防ぐことはできず、規制とバブルのいたちごっこは続くだろう、と。

  上のように、タイトルから想起されるような「反資本主義思想に対抗する資本主義の啓蒙書」ではない。経済学者の最新の議論を紹介して効果的な経済のコントロール方法を検討しつつも、けれども資本主義経済が完璧に安定的になるということはないだろうとあきらめてみせる。「でもこうやってつきあっていくしかないんだよね」というのが本書のニュアンスだろう。
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