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大胆なタイトルだが、けっこう控えめな印象

2010-09-04 08:58:17 | 読書ノート
ジョン・オルコック『社会生物学の勝利:批判者たちはどこで誤ったか』長谷川眞理子訳, 新曜社, 2004.

  E.O.ウィルソンが立ち上げた分野「社会生物学」について、その批判に答えながら研究成果を紹介し、分野が科学的に適切であることを証明する試み。著者はアリゾナ大の昆虫学者。最近あまり表だつことの少ない「社会生物学」を掲げているところが興味をひいた。遺伝と人間の関係を扱うために、その下位分野である「進化心理学」が論争の最前線になったような印象があるからだ。

  とはいえ内容は、進化心理学関連の翻訳を読んだことのある者にはお馴染みのものである。進化論は遺伝決定論ではないことと、批判者における自然主義の誤謬を指摘すること、至近要因と究極要因による説明方法は異なること、淘汰の単位は遺伝子であり種ではないこと、人間の心もある程度進化によって形成されていること、などなど。結局、社会生物学だろうと進化心理学だろうと、重要な論点は同じだということだろう。

  というわけでデネット(参考)やピンカーの進化論擁護本1)に連なる。議論の進め方は他の二者より丁寧で、筆致は落ち着いている。デネットのように韜晦でなく、ピンカーのように話がウマすぎて疑問を持つことを忘れてしまうということもない。適度にごつごつした学者肌の説明で、こういうスタイルに安心を感じる読者には最適。

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1) スティーブン・ピンカー『人間の本性を考える:心は「空白の石版」か』NHKブックス, NHK出版, 2004.
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