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意義づけ作業にもまた意義あり、しかし…

2010-01-22 11:13:36 | 読書ノート
本田由紀『教育の職業的意義:若者、学校、社会をつなぐ』ちくま新書, 筑摩書房, 2009.

  若者が学校から労働市場へスムーズに移行できるように、職業教育の必要を説く書籍。こうまとめると「何を今さら」という印象だけれども、ここでの著者の仮想敵は「職業教育なんていらない」「それよりも市民教育が必要」と訴える人々であり、彼らに反駁するための議論が展開されている。

  データを用いた詳細な議論は読者を納得させるものである。特に学校における職業教育の国際比較を行った第3章は興味深く、日本の学校は「ずば抜けて何もやっていない」という結果となっている。処方箋については不十分であるが、「教育の職業的意義」を根拠づけることには成功しており、目的は果たされているように見える。

  しかし、著者の議論にうなずきながらも、変え難い日本の現実というのも強く感じる。文科省の指導さえあれば、学校で職業教育的なプログラムを設置することは容易なことだろう。それでも企業は、学校の出す単位あるいは評価など見向きもせず、コミュニケーション能力というあいまいな評価軸を尺度に採用活動を続ける可能性がある。そうした人事による成功体験が、今のところ蓄積され続けているのだから。

  結局、著者の理想を実現するためには、企業の入れ替わりを促進するような経済が前提となるではないだろうか? これまで曲がりなりにも存続してきた企業が、採用方法や人事の評価基準をわざわざ変更する動機はあまり見当たらない。敢えて職種で採用するような新興企業が市場で成功し、古い企業の経営が傾いていくような状態でないと、採用方法の変化は遅々として進まないと思われる。しかし、現在の日本はおいそれと起業などという冒険をできる状態ではない。結局、採用の変化も景気が鍵になるのだ──1960年代に同じように。
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