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住宅政策における標準世帯の優遇とアウトサイダーの貧困

2009-04-25 14:01:59 | 読書ノート
平山洋介『住宅政策のどこが問題か:「持家社会」の次を展望する』光文社新書, 光文社, 2009.

  戦後日本の住宅政策とその結果について検証した書籍。日本の住宅政策の特徴は、①標準的な世帯──正規雇用された夫とその妻子──に照準があり、彼らに持家所有を勧めるものだが、これに該当しない世帯には著しく不利である。②公営の賃貸住宅の供給・あるいは家賃補助が少なく、北欧よりは英米に似た政策を採っている、ということである。英米型の住宅政策は、戸建の売行きが景気に直結しやすく、経済が不安定になるという。

  白眉なのは第3章で、世代・就労状態・性差・所得などの面から、属性別にどのような住居に住んでいるのか、データを使って細かく分析している。そこでは次のような指摘もなされている。バブル以降の若い世帯が、資産価値を期待できない持家をわざわざ買って、以前の世代よりも過大な債務を負っている、しかもそれが政策的に誘導されている、と。

  気になる点もある。30歳半ばにもなると、周囲の知人や同僚が一戸建てやマンションを買うようになる。ので、僕も「賃貸か持ち家か」をテーマにした書籍を数冊読んだことがある。こうした「賃貸vs.持家」本のいくつかで言及されていた、借地借家権の問題と、固定資産税・相続税の問題が、この本では扱われていないことである。それは次のような議論だった。借り手の権利が強いため、貸し手は防衛のために、立ち退かせにくい家族向けの賃貸物件を供給しなくなった。固定資産税・相続税が安すぎて、山の手線圏内のような都市中心部に一戸建てが残り、効率的な土地利用すなわち集合住宅の供給を阻害してきた。

  もしかしたら、この二つの論点は専門家には無視できるようなことなのかもしれない。ただ、この領域にちょっと関心のある素人には耳に入ってくる議論なので、新書レベルでは言及して批判を加えるなりしてほしいところだ。著者が「中立」的として提言する政策は、住宅政策を市場任せにして公的介入を止めるのではなく、賃貸住宅の充実を図り公的支援するもので、一戸建て所有を不利にするもの(賃貸市場が充実すれば一戸建て市場に影響するだろうから)である。だが、このように公費を使う前に、借地借家権の変更と固定資産税の税率の操作をし、あとは「民間活力」で対処しようとする議論があるのは確実である。こうした議論を無視しているので、素人目には本書の公的支援の議論が性急であるように見えてしまう。
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