橋ものがたり(新潮文庫)
★★★☆:70点
~文庫本カバーより~
幼な馴染のお蝶が、仕事場に幸助を訪ねてきた。奉公に出るからもう会えないと、別れを告げるために。「五年経ったら、二人でまた会おう」年季の明けた今、幸助は萬年橋の袂でお蝶を待つが・・・。(「約束」) 様々な人間が日毎行き交う江戸の橋を舞台に演じられる、出会いと別れ。市井の男女の喜怒哀楽の表情を瑞々しい筆致に描いて、絶賛を浴びた傑作時代小説。
上記の文章がこの本の内容・味わいをよく表しています。橋は人間模様の舞台としてもってこいですね。現代では、車や電車で何も考えずさっと渡ってしまいますが、この小説では渡りたいのに渡れない橋、渡ってはいけない橋などが出てきます。そこに秘められた人々の過去や思い。藤沢作品としては水準レベルかなと思いますが、江戸の町や川べりの風景描写の巧みさはやはり素晴らしいです。10編で出来に(いや、個人的な好き嫌いですね)多少バラツキがありますが評価は以下の通りです。
○:「約束」 ○’:」「川霧」「小ぬか雨」「思い違い」「氷雨降る」「吹く風は秋」 △:「まぼろしの橋」。ベストは「約束」。台所から聞こえてきたお蝶の泣き声が切ない。しかし、これは嬉し涙でもある。「川霧」も良かったのですが、ラストが若干あっけなかったです。