RC造とは何か・・・・開口部の亀裂から考える

2009-07-07 09:47:55 | RC造

日本の木造技術について書いている間、常に一定のアクセスがあったのは、「RCの意味」「旧帝国ホテルのロビー」そして「旧丸山変電所のトラス」「登米小学校トラス」の記事だった。

そんな折、ある人から相談があった。それはRCの亀裂についてのもの。

上掲の図は、その人が頼んだある住宅メーカーの「木造の住宅」の基礎の概略図。
ベタ基礎で、図のような位置に、コンクリートの打設時に、既製の合成樹脂製の「換気口ユニット」が打込んである。形枠は鋼製。
ところが、形枠をはずしたところ、赤線の位置に亀裂が入っていた、というのである。
基礎幅は、なぜか分らないが165mmもある。
「換気口ユニット」の上にあたる部分は、高さは大体120~130mm程度。その部分には、16Φの異型鉄筋が1本流されている。

写真で見ただけだが、亀裂幅は大きく、全周どころか完全に中まで入っている様子。
その部分は、コンクリートは左右とは縁が切れていて、鉄筋だけでつながっているのである。あたかも鉄筋を芯にしたアイスキャンディのような姿。力を入れて回せば回転するだろう、そういう状態。
注文者が心配するのも無理はない。

これは、通常RCの壁に開けられた開口部の四隅に生じる斜めの亀裂とは違う。
開口上部の「まぐさ」にあたる部分の高さ寸法が小さすぎて、自重に耐えかねて下がりかかったような亀裂。コンクリートの固まるときの収縮がまともに影響しているのかもしれない。
コンクリートの表面には、大きな気泡の跡がたくさんあるから、水の多いコンクリートを使い、しかもよく突き固めていない証拠。

当然、注文者は、これで大丈夫なのか、と質問をする。
その答は、「うちの現場では、どこでも亀裂が入る。強度上は大丈夫だ」というもの。
そこで心配になり、相談に来たというわけである。

強度の上では問題がないのは確かである。換気口の上の部分がなくても基礎の強度には特に問題はないからである。
問題は、亀裂からの水の侵入。かならず入る。水が入れば鉄筋は間違いなく錆びる。

ここでいくつかの疑問が湧いてくる。
なぜ、換気口をこのような位置に設置するのか。
なぜ、どこでも亀裂が入っている、と言って平気でいられるのか。
換気口の位置の件は、直接訊ねてみないと分らない。
しかし、「亀裂が入るのがあたりまえ」であるかのような応対、これは甚だ問題である。

この住宅の現場は茨城県。
今から30年余り前、つまり1970年代、茨城県下では、RC造に習熟した職人さんはきわめて少なかった。習熟している方々は、東京に行ってしまうからである。
そのため、茨城県下のRC造の仕事は、いわば不慣れな人たちがこなす状態だった。
しかし、その方が結果は良好であった。「基本を疎かにしない」からである。

それより10年ほど前に、青森県での仕事があった。1965年ごろのこと。
青森県でRCの建築工事というのは、当時そんなに多くはなかった。土木ではあたりまえのRCが、建築ではまだ少なかったのである。
現場主任は土木畑の人。RCに詳しく、いろいろ教わった。そこでも、基本に忠実だった。だから、いい仕事になった。

それから僅か3・40年。
仕事に「慣れる」「慣れてしまう」というのは、「基本を忘れてしまう」ということらしい。RCとは、本来、どのような工法であったか、ということを忘れてしまうのだ。これについては、大分前に書いた(下記)。

   註 「コンクリートは流体である」
      「RC:reinforced concrete の意味を考える-1」~「同-3」

RCにとって、平滑な面の真ん中に開口:孔を開けることは、きわめて注意が必要である。それが念頭にあったならば、上掲の図のような開口を設けるようなことはしない。

原理的に言って、コンクリート造は「組積造」である。
「煉瓦」や「石」だと、その理屈は直ちに分るのだが、「コンクリート」になると、積んであるようには見えないために、そのことが忘れられる。

「組積造」で壁に開口をあけるとき、開口の上部に「まぐさ」を据えて壁を積んでゆくか、あるいは上部に「アーチ」を設けて積んでゆくのが普通の方法。そうしないと上の部分は下に落ちてしまう。要するに、開口上部の壁の重さを、開口の左右の壁に伝えるような策を採らなければならない。コンクリートも同じなのだ。

けれども、鉄筋で補強されると、つまりRC造になると、この事実が忘れられる。
RCのRは reinforced の略、その意味は「補強する」ということ。
RCの平面の壁に開口を開けるとき、四隅に補強筋を入れるのが「常識」になっている。これは、それによって、開口上部は落下することなく維持される(だろう)、といういわば机上の考え方。鉄筋で補強すれば「組積造」の性格がなくなる、と考えられてしまうらしい。

しかし、そのようなことはない。
鉄筋で補強しようが、「基本的な性格」は変らないのである。

上掲の図の例でも、開口の下側には補強筋が入っている、しかし、上側には、入れようにも入れられない。だから、横筋だけ。おそらく、埋め込まれた既製品の合成樹脂製の換気口も、上のコンクリートの支えにはなっていないと思われる。

現実には、補強筋を入れたところで、四隅に斜めの亀裂がかならず入る。入っていない例は見たことがない。
「基本に忠実」なら、つまり、亀裂の入る事例を数多く見たならば、むしろ、「補強筋は役に立たない」と結論付けるのがあたりまえだろう。補強筋を入れることで解決される、とは考えない、ということである。
つまり、RCは基本的に「組積造」であることを念頭におくならば、上掲の図のような場所をつくることはしない。

その目で見てみると、西欧の初期のRC造の開口部には、「組積造」の「伝統」が継承されているように思える。
簡単に言えば、四隅に斜めの亀裂が入るようなつくりにはしていない。コンクリートの性質に素直に対応し、鉄筋に信頼を置くようなことはしていないように見える。

   註 RC造で壁に開口を設けるとき、
      その箇所は下がり壁も腰壁も設けず、つまり全面を開口にして、
      下がり壁、腰壁とも、別途に設ける方法を採ると、
      亀裂の発生の心配はしなくても済む。
      これが「組積造」で開口部をつくるときの方法。
      実際、今から25年ほど前にこの方法を採ったRC壁構造の建物では、
      亀裂はどこにも生じていない(近く訪れるので写真を撮る予定)。

RC造は、打設時には「流体」、固まれば、基本的には「組積造」である、という「事実」を、あらためて認識する必要があるように思う。


ところで、上掲の写真は、コルビュジエのサヴォワ邸。1929~31年にかけてつくられた。
上は1970年ごろの撮影(「GA」から転載)、下は上の写真の内側にあたり、竣工時点の写真(「コルビュジエ作品集」から転載)。

上の写真には赤い丸を付けたところに、亀裂らしきものが見える。しかし、通常の亀裂のような斜めではなく、水平と垂直方向に入っている。
つまり、これはRC造の壁の開口部につきものの亀裂ではない。
この部分は、RC造ではないのである。
下の写真のように、柱と柱の間には、開口部の上下に梁が架けられ、その間にブロックを積み、左官仕上げで平滑な面に仕上げてある。
その結果、RCとブロックの境に、当然のように、亀裂が発生したのである。

コルビュジエがなぜこのような工法を採ったのかはよく分らないが、想像するに、すべてをRCにした場合の「重さ」を考えたのではないだろうか。ブロックなら軽くなるからだ。そのかわり、接続部に亀裂が生じる。


では、日本の土蔵造の開口部は、どうなっているだろうか。
厚く土を塗る壁(場合によると20~30cmの厚さになる)というのは、いわばコンクリートのようなもの。
その「土壁」の開口部では、亀裂の発生にどのように対処しているだろうか?
次回、それを見てみたいと思う。

そして、その次あたりには、F.L.ライトがヨーロッパのRC造に触発されて設計した「落水荘」の、施工工程を解説した書物があるので紹介しようと思っている。RC造の特徴・得失がよく分るからである。

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