コンクリートは流体である・・・・無梁版構造の意味

2006-10-22 19:52:45 | RC造

上段右の写真は「無梁版(むりょうばん)、別名マッシュルーム」構造。
これは、スイスの技師ロベルト・マイヤールが1910年に設計したチューリッヒの倉庫。
「無梁版構造」では、1938~39年のF・L ライトのジョンソンワックスビルが有名だが、この倉庫はヨーロッパで最初の「無梁版構造」だという。

学生のとき、この構造については、近代建築史の講義できいたが、そのときは「コンクリート構造の一工法」という程度の理解にすぎなかった。
実際に鉄筋コンクリートの建物を設計し、現場に出て、理解が一変する。

鉄筋コンクリートの柱・梁の納まりは、上段左の図のようにするものだ、と思っていた。またそうも教わった。現に、建築教育用教科書「構造用教材」(日本建築学会編)の最近の版でも、こういう納まりで図解されている。そして、そのような納まりの設計をした。

現場では、この納まり部分の製作で型枠大工が難儀をしていた。なぜこんな面倒なことをするのだ?
また、この納まりが、構造上重要なこの部分に、「ジャンカ」を発生させやすいことも、打設に立ち会って、よく分かった。なのに、なぜこうするのだ?

マイヤールの鉄筋コンクリート工法の師匠は、フランス人アンネビックだが、彼のコンクリートの建物は、木造に似て梁を柱で支える方法だったという。
最初の鋳鉄製のアーチ橋Severn橋をつくるとき、石のアーチが手本になったように、技術の進展においては常に起こる現象である(もっとも、コンクリートでわざわざ木造の形体をつくることに専念した「香川県庁舎」のような例もあるが・・)。
 
マイヤールはそういう過程を経て、打設時には流体であるコンクリートに適切な工法に思い至る。
それは、鋳鉄の鋳型が鋳鉄が隅々まで流れ込みやすいようになっているのと同様、コンクリートが流れやすい形体とすることであった。
そう理解すると「無梁版構造」の意味がよく分かる。コンクリートならではの工法であり、形体なのだ。

彼は、その後、多くの橋梁設計でめざましい活躍をする。
下段の写真は、1936~37年にスイス、ジュネーヴ近郊につくられたアルヴ橋とその橋脚の配筋図。おそらく、細く絞ったところで動きを吸収しようという考えではないかと思うが、構造の専門家のご意見をおききしたい。

この時代には、すでに構造力学は体系化している。彼は構造力学を、「自らの感性で想定した形体の確認のため」に活用したのである。マイヤールは、見事な橋をこのほかにも多数設計している。

以後、私は、鉄筋コンクリートの建物の設計では、たとえば、柱と梁の幅は同じにし、上段左のような納まりは一切使わなくなった。機会を見て、紹介したい。

今回の写真は、S.Giedion“Space Time and Architecture”Fifth Editionより
 

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