組積造・土塗大壁の開口部-1

2009-07-11 10:57:50 | RC造

[註記追加 7月11日 20.16][註記追加 7月13日 15.58]

写真①~④は、いずれも会津・喜多方の建物。
写真の①は、喜多方の最も古い「煉瓦蔵」の一つ、「煉瓦組積造」の蔵。

②は、「煉瓦蔵」より前からある土塗り大壁で軸組をくるむつくり「蔵造り」の腰の部分に煉瓦を張った建物。
③④は代表的な土壁塗り篭めの「蔵造り」。ともに、腰には、土壁の上に「雪除け」を設けている。

⑤は、遠野へ向う途中で見た土蔵造り。

①は、西欧でも見られる「組積造の開口部」の典型的・基本的なつくりかた。
開口の上部の重さをなるべくスムーズに開口の両側の壁に伝えるため一般に、「組積造」の開口部は、原則として「縦長」:「幅」≦「高さ」:につくる。

①aの開口の、上は2階の小窓で、幅が450mm程度。「まぐさ」を役物の煉瓦を「矢筈」形(左右対称)に積むことで上部の重さを両側に逃がしている。

   註 [註記追加 7月11日 20.16]
      2階窓下が若干白っぽく見えるのは、2階窓の敷居部からの
      雨だれによるもの。
      敷居部に「水切」(皿板)を設けると避けられる。

   註 [註記追加 7月13日 15.58]
      1階の腰まわりの煉瓦の破損は、降雪の凍結によるもの。
      これは、普通の煉瓦が多孔質:吸水性があるために生じる。
      この解消のために煉瓦や瓦に釉薬(灰汁)をかけるようになり、
      喜多方独特の色彩の瓦・煉瓦が生まれた。
      写真②の腰の煉瓦が釉薬をかけたもの。
      なお、山陰地方では、瓦の凍結防止のため、
      当初、焼成時に塩を加え、表面にガラス質の膜をつくる方法が
      採られていた(「塩焼」)。

開口幅が広くなる1階の出入口まわり(幅約1m)や、①bの窓では、「まぐさ」にアーチが使われる。2階の窓の幅は約90cm。
①bの1階の窓の「まぐさ」のアーチが煉瓦2段になっているのは、上からの重さが2階よりも大きいからである。なお、1階の窓の幅が狭くなっているが、これは、改造によるもので、元は2階と同じ幅。

また、2階の開口の窓台にあたる部分で、開口幅より煉瓦半枚ほど広く煉瓦「小端積」にしているのは、両側の壁を伝わってきた重さを開口部下の壁(腰壁)に伝えるためで、これも「煉瓦組積造」の常套的な方策と言ってよい。

もっとも、常套的な方策とは言っても、先導者から教わらなくても、これらは実際に煉瓦を積む作業を通じて会得できる方策である。
なぜなら、煉瓦を積む作業を通じて、力がどのように働くか、実感として、あるいは体感として、感じられるからである。
別の言い方をすれば、人に教えられなくても、あるいは、「力学」の学習をしなくても、会得できるということ。

このことは、木造軸組を土壁で塗り篭める「蔵造り」の場合も同じで、下手に開口を開けると四隅にヒビが入ること、そして、そうならないためにはどうしたらよいか、その方策を、実際の作業を通じて会得したものと思われる。
なぜなら、各地の土蔵で、同じような方策が採られている、つまり、方策の「原理」は共通だからである(とかく、どこかに「先進」地域があって、それが「後進」地域に伝播してゆくという考え方が採られることが多いが、私はそのような安易な考え方:ルーツ論?は採らない)。

②は「土蔵」あるいは「蔵造り」で最もよく見られる例で、開口の四周に土塗りでつくった「額縁」をまわす方法。
この例の場合は、おそらく、竹小舞で「芯」をつくり土を塗り篭めたつくりだろう。
一般に土塗り篭めの開口でも、「幅」≦「高さ」とするのが普通だが、この例の2階の窓では、幅の方が広い。
これは、開口の上部の土で塗り篭めた「まぐさ」を、軸組横材「妻梁」に被せてつくっているからだと思われる。
このつくりで一番気になるのは、上下の開口の間の部分。これもおそらく、2階床梁位置に1階の窓の「まぐさ」を設けてあると考えられる。
見た限りでは四隅に大きな亀裂は見られない。

このことは、土壁で塗り篭める「蔵造り」では、開口を軸組に添わせてつくるのが原則、ということを示している。
もっとも、木造軸組工法の壁は基本的に真壁であり、開口は軸組に添ってつくるのが普通。それを土壁で塗り篭めるのだから、そのようになるのがあたりまえといえばあたりまえではある。

③と④は、「額縁」の下地を木材で組み、それを土で塗り篭める方法と考えられる。開口は梁・桁位置まで開けられ、開口の両側には「柱」がある。
つまり、「柱」と「梁・桁」、そして柱間に渡された「窓台」(「差物」になっているかもしれない)によって囲まれた全面が開口。「額縁」の芯になる「木部」は、それらに取付けられ、それを土で塗り篭めている。したがって、開口とまわりの壁の間には亀裂が入りにくい。
ただ、よく見ると、③では、開口「まぐさ」の塗り篭め部と「けらば」(これも塗り篭め)とが最も近づく箇所にヒビが入っているのが分る。「まぐさ」が「けらば」に接すると、「けらば」の方にヒビが入る場合が多いが、②では入っていないようである。「塗り篭め」の場合、妻面の開口は難しいようだ。その点では④の方が無難。

   註 この点について、以前、下記でも触れた
     「『煉瓦の活用』と『木ずり下地の漆喰大壁』」        

⑤は、大壁でなくても、壁を塗る場合にはしてはならない例である。
壁面に、このような段差:大きく変化する場所を設けると、かならず亀裂が生じる。塗り篭めの壁の場合、壁面は「整形」にまとめるのがよく、このような段差が生じる形になる場合は、「見切り」を設け、「整形+整形」の形にするしかないようである。
もちろん、真壁でも同様で、不整形の箇所ではかならずヒビが入るから、真壁で窓枠をつくる場合にも、不整形の壁が生じないように(残らないように)方立や敷居・鴨居の設置に注意が必要である。

実は、「組積造」や「土塗り篭め大壁」で苦労する箇所は、RCに共通すると言ってよい。
逆に言えば、「組積造」や「土塗り篭め大壁」の方策は、RCにも応用可能だ、ということ。
ところが、RCはこれらとはまったく異なる工法だ、という「理解」が先行しているように思える。その「根底」にあるのが「鉄筋信仰」。
先日紹介した亀裂の入った「布基礎」、「なぜそうしたのか」という質問に対して、「鉄筋が通っている方が強いと考えた」という答があったそうである。ヒビより鉄筋、というわけらしい。これなど、まさに「鉄筋信仰」。

ものごと、やはり、「基本が大事」、「原理・原則が大事」と私は思う。

次回には、土塗り篭めの額縁なしの開口の例をいくつか。ただ、今回は自前の写真。次回は、いろいろの書物からの転載。

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