RC・・・reinforced concrete の意味を考える-2

2006-11-17 13:07:12 | RC造

 先のM小学校の児童玄関(1階)・図書室(2階)の北側に、2階分吹抜けの多目的ホールがある(2階は吹抜けを挟んで両側にギャラリー:図面)。

 この建物の断面は、幅7200㎜の本体(上屋)の両側に、幅2400㎜の下屋を付けた形で、棟全体は切妻形になっている(外観写真)。これは、[上屋(身舎・母屋)+下屋(庇)]という伝統的な架構方式の応用である(この方式は、洋の東西を問わず、古来各地にある)。

 下屋の高さは、本体:上屋より、一段低く、その段違い部分を採光・通風のための欄間として利用。
 上屋、下屋それぞれにRCの深い軒を設ける。軒は、軒先の立上がり部を含めた全体が構造体である(梁と逆梁を併用)。それがそのまま建物の外観に表れる。
 写真は妻側の正面(児童玄関・ポーチが1階、図書室・バルコニーが2階)。

 多目的ホールの大きさは、長手方向は[5400+8100+5400]計18900mm、短手は[2400+7200+2400]計12000㎜。児童玄関・図書室にならえば、1階の長手方向の上屋柱列に、上記スパンごとに柱型が並ぶことになるが、ホールの性質上、それを除きたい。
 そこで、2階ギャラリーの手すり部分を利用して18900㎜を跳ばし、1階の中間の柱型を取り去ることにした。
 手すり分をRCでⅠ型断面の梁の一部と考え、梁の中途を側柱からの片持ち梁で受け、さらに、手すりの中途の360mm角の補助柱と、両端部1800㎜の補強柱付きの壁で屋根梁と床梁とをつなぐ。
 つまり、ギャラリーを構成する床スラブ(厚180㎜)、屋根(=天井)スラブ(厚120㎜)、柱、上下の梁、下屋柱からの片持ち梁、手すり・・これら各部の一体的な協力によって、言い換えれば、いわば筒状の立体で、ギャラリー部分を支えよう、という考えである。これは、『鉄筋により補強されたコンクリート』だからこそできることと言ってよい。
 断面図のように、上屋柱の上部には、上屋の梁と下屋の梁と、梁が2段設けられるが、下段の梁は、木造の「差鴨居」様の働きをすると考えられるかもしれない。

 なお、2階のコンクリートの打設は、先ず下屋の梁の天端までを打ち(柱に打ち継ぎ目地がある)、次いで、その上の上屋部分(上屋内側の360mm角の補助柱も含む)を打つ、という工程をとった。

 腰壁部分をRCにしたのはギャラリーの手すり部だけ。
 360mm厚の壁をくり抜いた構造体の開口部分、あるいは腰壁は、主にレンガ1枚積(場所によってはコンクリートブロック積)で開口の大きさを調節している。
 要は、「必要のないところまでRCにする必要はない」という考え。ゆえに、《耐震スリット》の出番もない。
 また、2階床スラブは、外部に面する箇所では、「水切」のために、梁外面より外に120㎜:柱外面まで出している(「水切」は、壁面の汚れを防ぐ手段として有効である)。

 なお、構造解析・計算は、竹園東小、江東図書館と同じく増田一眞氏にお願いしている。

 図は、実施設計図(手描き)のコピーを編集したもの。
 断面図上の[1FSL]とは、[1階床スラブレベル]の意。
 実施設計図の基本寸法は、すべて構造躯体の位置で指示し、仕上げ位置は、躯体からの寸法で指示している(そのため、実施設計図だけでも施工が可能)。
 写真は、竣工写真より(正面は筆者撮影)。
 ハンチ型の壁と手すり部の配筋、基礎地業については、あらためて紹介します。
 また、M小学校では、体育館の屋根に、山形鋼(アングル)によるトラス・アーチ梁を使ったので、これもいずれ紹介します。
 
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7 コメント

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レンガ壁に関して (はな垂れ)
2006-11-17 20:47:51
『要は、「必要のないところまでRCにする必要はない」という考え。ゆえに、《耐震スリット》の出番もない。』との説明は、『構造的にDLにしかならないところを何で作るか』という話ですか?スリットが合理的かどうかという本来の話ではないと思います。2階のギャラリーの腰壁(特に高いほう)は、(断面図方向の)水平力を負担する壁なのですか?負担するのであれば、取り付く柱が短柱になるけども、上階がないのでせん断力が少ないだけの話。水平力を負担しないと言うのであれば、柱と縁が切れている、つまりスリットを設けたときと同じ、構造的にはただのDLでしかありません。そもそも2階建て程度ならスリット設けなくても出来るのは普通のことでは?多層になればなるほど増大するせん断力をどう処理するか、かつ施工費を経済的に抑えるかのバランスから生み出されたのがスリットだと思います。フレームを組んで、後付で(レンガ等で)壁を設けるやり方が、多層の建物にも(経済的・構造的などさまざまな観点から)応用可能、「現実的かつ至上の方法」との考えですか?

レンガの壁(の構造的役割の話)に関して言えば、結果が同じ事を、わざわざ手の込んだ方法でやっている印象しかしませんけど。
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 (筆者)
2006-11-17 22:45:08
《構造的》な話だけで建物はつくれません。建物をつくるとはどういうことか、何を考えてつくるのか、その全体像の中での《構造》なるものの位置づけを教えていただきたいと思います。

また、レンガ積みは簡単な方法です。素人でもつくれます。形枠などの仮設もいりません。そういうムダがありません。どこが手の込んだ方法なのか分かりません。
ただ、それが現実的かつ至上の方法などとは一言も申しておりません。レンガが気に食わないのかな?
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??追伸 (筆者)
2006-11-17 23:21:18
コンクリートのDLと、レンガのDLとは、DLだから同じだ、と考えておられる?
腰壁の高さは、いつも《構造的》だけで決めておられる?でないならば、何で決めておられる?
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煉瓦は別に嫌いではありません (はな垂れ)
2006-11-17 23:41:19
仰りたい事はわかります。煉瓦は「風合いがいい」「そのまま仕上げにもなる」と言うことですよね。そのような返事もあるかと思い、言葉を選んで書いてます。『レンガの壁の(構造的役割に)関して言えば・・・』と。
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はっきりさせては? (はな垂れ)
2006-11-20 18:52:08
最新の記事とかを見ても、よく細かいところまで考えて設計しておられるなと感心します。しかし・・・スリットに関しての認識については、うやむやにせず認識を変えるべきでは?あるいはやはり必要ないのだとはっきり立場を明確にすべきでは?当初とはややトーンダウンしているようですが、そこのところがハッキリしません。はな垂れは別に筆者さんの仕事にけちつけるつもりはありませんが、「スリットはいらない」とか「この建物はスリットとは無縁だ」などの発言はどうしても頂けない。

筆者さんは、『つくられるすべての部分が外力に対して有効に働くように考えるのが「常識」ではないか』との理由でスリット(それを設ける人々も含めて)は馬鹿げているかのような論調で、これを「非」とされました(これは折り合いをつけるつけないの問題ではないとも)。これに対してはな垂れは、「構造的理想から言えば設けない方が良いけれども、さまざまな要因から設けざるを得ない場合がある」として「是」の立場を(今も)とっています。

ではそもそもスリットを設けるとはどういう状態か?
つまり(筆者さん言うところの)『構造的にはDLにしかならないところが出来る』と言う事。そのことから言えば、この建物はDLとしか思えない箇所が多数存在する。その指摘についての返答を逐一検証してみると・・・
『《構造的》な話だけで建物はつくれません。』
→それは当初からこちらが言っていることでは?
→理由があればいいの?《短柱をさける》《偏心を抑える》などは理由にならないの?
『レンガ積みは簡単な方法です。素人でもつくれます。形枠などの仮設もいりません』
→だからそれは(スリット設けた後)雑壁をどう作るかの話で、スリットの必要性の有無とは次元の違う話では?
『開口周辺のひび割れをなくすため・・・』
→柱際まである開口なら、スリット設けた雑壁でも事足りるのでは?
→そもそもスリットを設けるのは、《多層で層せん断力が大きくなった時に短柱をさける》《バランスの悪い建物の偏心を抑える》場合に止むをえず設けるのであって、2層程度でしかもバランスのよい平面計画なのに、DL壁をたくさん作っておいて、『この建物はスリットとは無縁です』などとは・・・大丈夫なのでしょうか?

このように見てくると、筆者さんの主張は完全に整合性を欠いています。

『何を考えてつくるのか、その全体像の中での《構造》なるものの位置づけとは・・・』
→それは欲するものを(主)どう作るか(従)であって、目的のために《構造的理想》が犠牲になることだって当然ある。この建物の場合も然りでは?

このレンガ壁に関しては、スリットが不要の立場からの説明だから、どうにもこうにも無理がある。ただ単に、『レンガが好きだから使った』でよいのでは?
もし自分が説明するとすれば・・・
『まず全体的な建物のイメージを思い描いた。屋根の形、それに瓦を載せることなど・・。するとフレームは全面コンクリート打ち放しだと単調になるし、全体イメージにもそぐわない。そこでレンガで壁を構成することにした。レンガは積みあがった時の佇まいが何とも言えない。施工もそれほど難しくなく、何より積むだけでそのまま仕上げとなる。この工法は、構造的にはDLとなってしまう欠点がある。しかし幸いにして低層であるため、フレームに与える影響は処理できぬほど大きくはない。何より前述の長所が、構造的な欠点を相殺して余りある・・・』と。

このような素直な説明ではだめなのですかね?
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折り合い (筆者)
2006-11-21 01:14:44
 スリットを使いたい方は、使って結構です。
 ただ、それだけしかない、そうするしかない、と最初から考える必要はないのではないか(いくら《折合い》とはいえ)、と当方は言っているにすぎません。

 当方は、柱・梁(そして耐力壁)の考え方の計画で、腰壁もRCとすると、万一の場合、腰壁が柱に悪影響を与える、ということが分かっているのならば、RCの腰壁も構造に組入れる計画にするか、あるいは腰壁をRC以外の材料でつくるか、そのどちらかにする、と言っているだけです。
 柱と縁を切った腰壁は、梁の上に自立させなければならず、ことによると配筋も壁厚も増やさなければならないかもしれません。もちろん、切れ目部分の防水対策にも留意する必要も生じるでしょう(多くの場合、シーリングに頼ることになりますが、その経年変化に対する考慮も別途新たに生じます)。
 当方は、こういうことをしたくない、と言っているだけなのです。当方の見解を強要するつもりはありません。それぞれの道を歩みましょう。

 《設計におけるイメージ云々》については、見解が異なりますが、今後書いてゆくことから、ご判断ください。
 
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折り合い? (はな垂れ)
2006-11-21 19:27:45
『スリットを使いたい方は、使って結構です。』『それぞれの道を歩みましょう。』

随分投げやりな言葉に響きますけど。これでこの話は折り合いをつけませんかという意味ですか?まったく話がズレてませんか?結果DLが出来てしまうのが是か非かの当初の話は、いつの間にか最初から是だった風に語られている(本当に元々そう考えていたのなら、最初にスリットについて問題提起した時の文章のように、今も現場にあって業務をこなす人を愚弄するかのような内容にはならない筈)。しかもそれを通り越して、柱際の切り方は何が良いか、で一般的に言われる《スリット》はシーリングを使用するから良くないなどと、全く違う話にすり替えている。

好き嫌いなどではなく、『スリットを設けないと出来ない建物が往々にしてある』という本来の話を素直に認識してください。

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