私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

Idle No More (3)

2013-01-19 22:38:27 | インポート
 カナダの保守党政府(ハーパー首相)が提出していた議案C-45 は総括的な予算案(omnibus budget bill)で、2012年12月14日に国会上院で50-27で可決されました。400頁を超す厚さの法案で多数の重要な既存法律の変更が含まれています。INM運動に関連する項目としては、Navigable Waters Protection Act(航行可能水路保護法)、Canadian Environmental Protection Act(カナダ環境保護法)、などの他に、先住民保留地で部族(バンド)の管轄下にある個人的所有の土地の売買の手続きの簡易化についての既存法の変更などが含まれています。航行可能水路保護法だけを取ってみても、変更の影響は甚大です。カナダの詳しい地図を見ればよく分かりますが、氷河期が終り、氷河が北に退いた後の、この広大な北辺の大地には無数の河川で結ばれた無数の湖水が残り、ここには全世界の淡水の40%が保たれているとも言われます。アメリカのよく知られた進歩的雑誌「プログレッシブ」の記事によれば、これまで航行可能水路保護法はカナダの2百6十万の河川、湖、それに海浜の大部分を保護して来たが、この度のC-45の成立で、今や87カ所だけが保護されるだけになったのだそうです。別のデータによると、97の湖、62の河川だけが保護法の制約を受けるだけになったとのことです。これに加えて、これまでの環境保護法が骨抜きになり、先住民に属しているとされている土地が部族共同体のコントロールを受けずに、売買が可能になったとなると、C-45の狙いの一つがグロテスクに浮かび上がって可視化してきます。先住民たちが大地にしがみつくようにして第三世界的に生きている広大なカナダ北辺の地は地下資源の宝庫なのであり、それを開発し、またそれらの宝を南に運ぶための交通輸送施設(道路、パイプラインなどのインフラ)を確保するためには、北辺の土地と水を自由に手に入れ、使いたいという強い動機がハーパーのカナダ政府にはあるのです。
 この恐るべき悪法C-45がカナダの国会で50対27という票決で可決されたという事実、これを易々として受け入れる現在のカナダの政治的な危機状況を深く憂慮して、我がテレサ・スペンスは立ち上がったのです。“もはや座視はすまじ”と決意した彼女のハンストはもう40日目に近づいています。魚のスープだけで固形食は取っていないので、だいぶん弱って来た模様です。彼女はティーピーの中でこう語ったと伝えられています。
■ When I die, I expect my body to be carried out of here with honour, and to go and lay in peace with my ancestors.(私が死んだら、私の体はここから葬儀にふさわしく運び出されて、私の祖先が眠る墓地に安置埋葬されることを期待する。)■
 次回には、彼女が率いる千五百人ほどのアタワピスカト・バンドの人々がどのような生活環境の下で生きて来たかを具体的にお話ししましょう。しかし、彼女は自分のバンドの生活改善のために政府に物乞いをしているのではありません。彼女は遥かに遥かに遠くを見ているのです。

藤永 茂 (2013年1月19日)



最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
藤永先生、自分のFacebookで INM運動のことを紹介... (brightness)
2014-05-29 22:49:43
藤永先生、自分のFacebookで INM運動のことを紹介させていただいてよろしいでしょうか?
返信する

コメントを投稿