「百年法」は本年度日本推理作家協会賞を受賞した、800ページに及ぶ、山田宗樹著になる、SF大作である。私は蓼科で過ごした夏の日に、一気読みした。
所は日本国。時は2048年から物語はスタートする。
SFだから、現実とは異なるが、原爆が6発落とされた日本。敗戦の絶望の中、国は1948年、すがりつくように、アメリカで開発された”HAVI”と名付けられた不老技術を導入し、人々は”永遠の若さ”を得ていた。余程の事が無ければ人は死なないのである。それは人口の果てしない増加を招く。そこで国は「生存制限法」(通称:百年法)を併せて成立させていた。
通称百年法では『不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て、生存権をはじめとする基本的人権はこれを全て放棄しなければならない』と定められ、その法律に基づいて、処置後100年を生きた人は、安楽死の道を選ばねばならず、その施設もすでに数ヶ所に建設・完成されていた。
そして2048年の日本。いよいよ百年法の実施が間近に迫っていた。国家的見地に立つ”志高い”官僚から見れば、この法律を順守しなければ、日本に未来はない。一たび権力を得た”老人”達が、”若人”達に道を譲るはずもなく、国力は停滞する。現にその兆候は見え始めている。
一方、間もなく死を選ねばならぬ人々は、その恐怖と不安に怯え始め、日増しにその声は増大しつつあった。国民の声を政策にと、野党の民権党は”百年法凍結”を掲げ、与党内部からもこれに同調する議員が多数出始めていた。この様な政治情勢の中、迷った末に内閣が選んだ道は国民投票だった。
その国民投票の結果は、圧倒的多数の賛成で”百年法凍結”。
例えば韓国では、処置後の生存が40年と決められて、その通りに実施され、経済急成長の原動力となっているのに、世界で日本だけは、HAVI処置後100年の長きにわたって生存が認められ、しかもその法律が凍結されてしまったのである。これを何とか覆そうと、内務省生存制限特別準備室長・深町章仁は、密かに動き始める。
ここからが物語の後半であるが、私には近未来に託して、現在の日本の政治情勢を語るような、前半部分が特に面白かった。更に強く思ったことは「限りある命。その最後の時など知らないほうが心安らかに生きられる」と言う事だ。
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