崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

ナツメ

2012年09月20日 05時20分49秒 | エッセイ
 長かった残暑の夏も秋に変わりつつある。数年前宇部のある人からいただいたナツメの苗木に実が実っている。食べるほどの量ではなく、季節を図るような「測候器」のようなものである。日本ではナツメは稀であり、味を知る人も少ない。しかし韓国では民族的代表的な果実とも言えるほど一般的である。祭祀には主な供え物として陳列位置は位牌に向かって「紅東白西」(棗東栗西)の前列右側におくようになっている。結婚式の一連として行われる幣帛式つまり新郎の祖先と親に礼をする式では姑がナツメを嫁のチマに投げてあげて子宝に恵まれるように祈念する。漢方、参鶏湯などの料理などでも多様に使われており、韓国人の大好物である。中国旅行で私の視線を引くのはナツメである。
 ナツメは味も良いが種、木幹の堅さなどで比喩されることも多い。種は堅い。その種は食糧にはならない。韓国では人間の種「シ」という表現がある。シは現代語でいえば精子であろう。経済学者白南薫はシ(씨)を注入することをシップ씹(性交)といい、男が種、女は畑というように父系制を説明した。氏の説は否定されたりしたがこの説を私は祖先崇拝に関する著書などで支持して発展させた。ベランダのナツメを味わい、種の神秘さを吟味している。