人間、生まれたときがあれば死ぬときがあるのはあたりまえで、だから死が近づいたとていまさらあわてる必要もないのだが、さてとなると、やっぱりあれこれときぜわしくなる。年の瀬はむりやりにでも越せるが、生命(いのち)の瀬はそんな具合にはゆかない。まことに融通(ゆうずう)のきかない話である。 . . . 本文を読む
愛する人の葬儀に参列する場面を心の中に思い描いてほしい。あなたは、会場に向かって車を走らせ、駐車して、車から降りる。そして、会場に入ると、花が飾ってあり、あなたは静寂な雰囲気に包まれる。その場に集まっている人々からは、別れの悲しみがにじみ出ているのと同時に、故人と知り合いになれた喜びが感じられる。 . . . 本文を読む
戦前に比べて、人間の平均寿命は延びました。ところが、長命ではあるものの、脳の機能障害のために、ただ生きているだけという植物人間が新しい問題として生じています。そのため、最近では、植物人間になるのを恐れて、自然死運動が起こりました。私もまた、この運動に参加していますが、現代人は死を恐れるだけではなく、生をも恐れる傾向があります。 . . . 本文を読む
宇宙と人生とをつらぬく大きな真理の「縁起(えんぎ)」の道理に、さからわずに随(したが)うのを随縁という。縁起の道理は因縁の真理ともいわれる。つまり、私たちの人生におけるすべての現象や事がらは、偶然に起きるのでもなければ、またその物やことが他と関係なしに有り得るものではない。 . . . 本文を読む
大隈重信という人物は、烈しい覇気と闘志との持主であったにとどまらない。性格において極度に外交的、外発的で自己主張に甚だ急であった。これは支配への根強い欲求に通ずる。そして、このような性格は他面からいい直せば、自己に沈潜(ちんせん)し、内面的充実をはかることに意を用いず、情操に乏しく、散文的であった。これは自己の才気を恃(たの)む者にしばしば見られる一つの性格である。 . . . 本文を読む
紀州侯に招かれた伊藤蘭嵎は、初めて殿様の前で講義をすることになった。拝聴を許された重臣たちも、威儀を整えて各自の席に着いた。紀州侯は上段にしつらえてある厚い座布団に静々と座った。水を打ったように静まり返っている部屋の中央に端然と控えた蘭嵎は、堅く唇を結んで一言も発しない。しばらく時が経過した。それでも黙然として身じろぎもしない。 . . . 本文を読む
自分を励ます最良の方法、それは人を励ますこと ( マーク・トウェイン ) The best way to cheer yourself up is to try to cheer somebody else up. ( Mark Twain ) . . . 本文を読む