裁判官が、戦勝当事国からしか出ていないというのは、普通に考えればおかしな話であろう。しかし、そんな中でも清瀬(きよせ)一郎弁護人は、涙が出るくらいの活躍をした。当時は占領軍がいて、日本は武装解除されているのだから、何をされても文句が言えない状況だった。その中で、毅然(きぜん)として日本国の弁護をした。
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冷戦構造が解体した1990年頃から、緊張のゆるみとともに、世界には巨大事件が相次いだ。ドイツ統一、ソ連消滅、湾岸戦争、ユーゴの内乱――いずれも主舞台は東アジアからははるか遠くへだたっていた。冷戦構造の解体は、日本の場合には、国内に二つの異常事態を生んだだけだ。見境のない自社野合政権の出現とオウム事件である。どちらも冷戦のしめつけが去った気のゆるみから生じた痴呆症状である。 . . . 本文を読む
44、5から50過ぎになると、能のやり方は一変すると世阿弥は言う。それは肉体的条件のほうがすっかり変わるからである。年には勝てぬ、というところがある。たとえば、すぐれた新聞記者でも、この年ごろからは現場を若い記者のように走り廻ることがむずかしくなるであろう。それで大新聞社は困っているのだ、と大新聞の人に聞いたことがある。
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日本の最初の大学史学科の設置は、ドイツ人リースの献言にもとづくものであり、坪井久馬三(つぼいくめぞう)、箕作元八(みつくりげんぱち)のような学者が、ヨーロッパに留学してアカデミズム史学を持って帰ったことは事実である。しかしそれは西洋史に関することであって、日本史の方は、太政官(だじょうかん)直属の修史館の時代から、正確な史実を信頼できる史料によって書くという近代的学問精神によって貫かれていたのであって、……。 . . . 本文を読む
肖像画と同じく伝記にも光と影がある。肖像画が醜い部分が見えないような角度でモデルを座らせるように、伝記作家も描こうとする人物の性格的な欠点をなるべく隠そうとする。しかし、実物に忠実な顔や性格のコピーが欲しければ、あるがままの姿を描かなければならない。
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親の庇護から離れて独り立ちしたいという願望はたいへん強いものである。しかし、子供を自分の独占物にしたり、子供の犠牲になることによって家族の関係が円滑にいっているような場合には、この独り立ちという自然な行為が家族に危機をもたらすことになる。 . . . 本文を読む
自分が読んでいる主題について友人と話し合うこともまた非常に大切だ。だが率直に、そのことについて現在読書中であることを打ち明けておかなければならない。そうすれば友人も、そのことをあなたが自分の意見として主張しているのではないことをわかってくるだろう。 . . . 本文を読む
伝記が役に立つのは、立派な人格の手本が豊富に盛りこまれているためだ。偉大な先人たちは、その生活の記録を通じてわれわれの心によみがえり、生きつづけている。過去の偉人はいまなお、われわれの机のそばに腰をかけ、この手を握りしめる。彼らが与えてくれる有益な手本を、われわれは学び、称賛し、見習うべきなのだ。 . . . 本文を読む
この世の中、この人生、人はすべからく絶対の確信を持って力強く歩むべしといわれる。それはまことにそうだけれども、よく考えてみれば、この人の世に、絶対の確信などあり得るはずがない。持ち得るはずがない。 . . . 本文を読む
金殿玉楼(きんでんぎょくろう)の中にあって暖衣飽食(だんいほうしょく)、なおかつ何らの感謝も感激もなく、ただあるものは不平と不満だけという憐れな人生に比較して、本当に、人生のいっさいを感謝に振り替え、感激に置き換えて生きられるならばどうであろう? . . . 本文を読む
高田馬場駅で、友達と待ち合わせしていた。すると、隣に見た目のコワイ、パンチパーマにサングラスのオジサンが立っていた。彼も人を待っているのだろうが、かれこれ5分以上は経った。ボクの友人もなかなか来ない。そうこうしているうちに、そのオジサンが話しかけてきた。 . . . 本文を読む
アンジェラは11歳の時に、身体全体の神経系統を侵す難病にかかりました。歩けなくなった上に、身体を思うように動かすこともできなくなったのです。医師たちは過去の経験から、アンジェラは治る見込みがほとんどなく、一生車椅子の生活を強いられるだろうと診断しました。 . . . 本文を読む
「シャントゥーズ・トキコ」。88年のニューヨーク公演で、新聞にこんな評が出た。このときもシャンソンは歌っていない。なのに、人生を語り歌うシャンソン歌手と評された。涙が出るほどうれしかったのと同時に、「そうだったのか」と肩の力が抜けた。封印が解けたように、翌年はパリに足しげく通い、ピアフのお墓や、生誕地を何度も訪ねた。その経験から二歳の子を失ったピアフの心情を描いた「名前も知らないあの人へ」という彼女に捧(ささ)げる歌を書いた。 . . . 本文を読む
アイデアを練るために、喫茶店とかに入って紙を睨(にら)んでいるのですが、最初の2、3時間はダメなんですよ、雑念がいっぱい浮かんでくる。あ、トイレットペーパーが切れていたな、買いに行かなきゃとか、次から次に浮かんできます。デビューしたての頃はこれに振り回されていましたが、最近は放っておくんです。もう、出るだけ出なさいと。そうして雑念が出尽くしてしまうと、自分の中に何も浮かばなくなる。「壁一枚越える」と言っていますが、そうすると意識が見えない別の世界にボーンと入って、何も考えなくていいんです。勝手に浮かんでくるから。 . . . 本文を読む