ばあさまの独り言

ばあさまから見た世の中のこと・日常生活のこと・短歌など

旅先で出会った親切

2009年07月27日 | 随筆・短歌
 私達夫婦は、一年に何回か旅に出ます。行く先々で親切にして頂いて感謝する事が多く、私達も日頃から人様に出来る限りの親切をしなければ、と思わせらることが度々です。
 その親切さが忘れられない想い出が幾つかありますが、その一つに京都の嵯峨野からの帰りに出会った、ご婦人二人の想い出があります。
 その日は清涼寺からバスに乗って、途中でバスを乗り換えて大谷祖廟の親鸞のお墓にお参りする予定でした。また何時来られるか解らない嵯峨野の風景を惜しみながら、キョロキョロしてバスを待っていた私達は、瀬戸内寂聴さんの「寂庵」へ行った帰り道というご婦人の二人組に出会ったのです。
 その一人が「遠いところから、わざわざ京都へお越し下さいまして有り難うございます。今日頂いたおふだが先日のおふだと同じなので、差し上げましょう」と仰って、表が色鮮やかな優しいお顔の観音様で、裏に曼荼羅山寂庵とあるおふだを一枚下さいました。
 寂庵は、以前嵯峨野廻りをした時に、出来てまだ年月の浅い庵を、それも親切なご婦人に「寂庵はこの先を右ですよ」と、寂庵をお聞きしたわけではない私達に教えてくださったのをご縁に、尋ねたことがあります。
 二人のうち少し年下と思しき方が、「私も市の中心部に行きますから、ご案内しましょう」と仰って下さいました。バスを繁華街で下車して、そこからは私達と一緒に歩いて案内して下さいました。「奥様はおみ足がお丈夫そうですから」と私に向かって仰って、どんどん歩いて「この道を真っ直ぐ行くと鳥居がありますが、その先です。私は此処で方向が変わりますので失礼しますが、どうか良い旅を続けられますように」と仰り、別れて行かれました。私達は大変有り難く、丁寧にお礼を言ってお別れしました。上品で清楚で温かい古都の女性を目の当たりにした思いでした。
 しかし、大谷祖廟はそこからまだまだ遠く、すっかりバテテしまいました。汗を拭き拭きやっとたどり着きましたが、何とも気持ちの良い疲労感でした。観光地の住人は観光客に不親切だと時折聞きますが、それは間違いだとこの方達は教えて下さいました。その時のおふだは、今は我が家のお仏壇に大切に飾ってあり、良い想い出のよすがとなっています。
 人の親切が身に沁みて有り難く思えるのは、特に道に迷った時かも知れません。九州まで車で行って、福岡からフェリーで途中まで帰ろうと思った時のことです。福岡港の船の発時刻は予めJTBで調べて、キップも買ってありましたし、そのキップケースに港の案内地図も印刷してありました。その日は生憎土砂降りでした。やっと港に着いたと思いましたのに、其処には船着き場らしい建物も見えず、何処から乗船するのか全く解りません。 しかし、キップを入れた案内の地図は確かに此処なのです。人に聞こうにも民家も無く、やっと一軒灯りのともっている作業場らしきところを見つけて、私が下車て尋ねました。
 そこでは三~四人の男性が魚らしきものをさばいていましたが、「地図がそうなっているなら、そうでしょう」という剣もホロロのな返事で、仕方なく元に戻り、大雨の降りしきる中をただ当てもなくウロウロしていました。持っていた九州の地図も、キップに印刷してある地図も、何回見直しても確かにこの場所を示していたのです。次第に夕暮れが迫ってきて、辺りが薄暗くなり始め、二人はパニックになってきました。
 するとその時、小型のトラックが一台近寄ってきて、その運転手さんが、「どうかしたのですか」と声を掛けてくださいました。そして雨が凄く降っている中を傘もささずにわざわざ下りて来て下さって「ここはもう港ではなくなったのです。もう別のところへ引っ越しました」と仰って、ご自分がみるみる濡れていくのを構わずに、詳しく教えて下さいました。地獄に仏とは、こんな時のことだと思いました。教えられた通りにかなりの距離を車を走らせて、やっと船着き場に到着して、生き返ったようにホットしました。
 幸い時間的に余裕を見てありましたので、充分間に合いましたし、乗ってしまえば静かな船旅でしたが、福岡市の地図が古くなっていたので仕方ないとしても、チケットと一緒にJTBが下さった地図が、移転前のものだったとは、信じがたいことでした。
 今でも、あの時のあの烈しい雨の中を、わざわざ車を下りてずぶ濡れになりながら案内して下さった、年配の男性の親切が忘れられません。
 もしあの方に出会わなかったら、私達は帰りの船に乗れなかったでしょう。お名前もお聞きしなかったことが残念でなりません。今はあの旅が話題になる度に、必ずあの親切な運転手さんを思いだして、感謝の気持ちを新たにしています。
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