ばあさまの独り言

ばあさまから見た世の中のこと・日常生活のこと・短歌など

遠い過去を手繰り寄せる

2021年12月26日 | 随筆
 今年のブログを終わりにした積もりでしたが、これまでの長い年月(始めたのが、2009年3月3日でしたから約12年が経ちました)を振り返っているうちに、何故か懐かしいあれこれが偲ばれて、又書きたくなりました。悪しからずお読み下さい。
 
 私と夫の故郷はここからは遠く離れているのですが、二人の昔の家は鉄道沿線の距離としては約13キロで、そう遠くなかったのです。卒業した高校も一緒です。ただしその頃はお互いに全く知らない間柄でした。夫の父も私の父も不思議なことに、双方その高校の教師でした。当時は旧制の中学校や女学校が高校となり、そのために校舎は幾つかあって、合併して時代と共に大規模校になって行ったのです。

 夫が小学性の頃は、両親と夫の姉と計四人家族でした。義父は或る時選ばれて、文部省(現在の文科省)に勤めることになりました。当時は滅多にない栄転でしたから、その時勤務していた高校の生徒全員が、見送りに駅のホームに並んで、ブラスバンドで送られたと聞きました。そして家族して東京に住むことになったのです。
 
 東京での宿舎は、渋谷の道玄坂を登った辺りにありました。ところが間もなく義父は勤め先でイジメに遭ったのです。なにしろ地方から出て来た職員でしたし文部官僚は、一言も指導せず「やり直し」と折角造った文書を投げ返して来たと聞きました。その様な事はままあるようで、私も勤めていた頃に当時の先輩から同じような話しを聞いた事があります。義父は年下の職員に馬鹿者扱いされて、とても辛かったようです。
 
 そんな時に義父の先輩が助けてくれて、樺太(サハリン)の高校の教頭として転勤出来たのでした。東京駅から出発する時は夜行列車でしたが、夜遅くにも関わらず同じ職場の人達が見送りに出て来て下さったそうです。
 サハリンは魚も沢山手に入ったし、寒い地方でも暖房が効いていて温かく、生活するには楽だったと姑(はは)から聞いています。ただし寒冷地なのでサハリンでは米が取れず、食糧難の時代は内地から米が届かず、カボチャが沢山取れたので、それを食べて手足の皮膚が黄色になったと聞きました。魚の干物もあり、ひもじい思いはしなかったようです。

 片や私の父も近くの高校の教師で、所有の土地はあらかた農地解放にあいましたが、その後も教師を続けて、そこが私の故郷です。私は高校卒業後に東京の短大に入学、やがて教員になりました。そして県立病院の薬剤師だった夫と、仲を取り持ってくれた人がいて結婚したのです。

 此処は県都ですが、その頃遠くに住んでいた夫の父が「適当な土地を探すように」と云って来ました。二人であちこち当たって、たまたま見つけた土地を父の許可を得て買ったのです。広い平野の真ん中ですが、住所に「山」の文字が入っていますので、良く目にする(海抜0メートル)地帯ではなく、水害や津波の被害もなさそうで安しています。

 当時は当然二人とも薄給でしたから、私達に殆ど支払い能力はなく、大部分は義父に助けて貰いました。県都の中心の駅までは徒歩で40分足らずで着きますし、バスの便も駅の表や裏に着くものが可成りあって、家を出れば、どれかに乗れるので便利です。当時はこのような緑の多い家が立ち並ぶ、環境の良い住宅地になるとは想像出来ませんでした。
 結果的にこの地に家を建てて娘と息子が生まれ、家を弟夫婦にゆずって育児のために出て来てくれた義父母に、私達の子供の世話をお願いして共働きが出来ました。義父も義母も今は故人ですが、振り返って見ると有り難かったですし幸せな人生を感謝しています。 それにしても夫の両親は、東京から樺太へ家族で行って、その後何年かして再び宗谷海峡を越え津軽海峡を越えて、最終的にこの地へたどり着いたのですから奇蹟のようです。
 
 私が退職した年に(50歳)知り合いの庭師さんに「松と灯籠と石池」の有る庭に造って貰いました。それまで義父母は、畑にして何かしら造って楽しんでいたのですが、老いて手も廻らなくなっていて、家の南向きの方の土地を庭に作り替えて貰いました。更に義父は貝塚息吹(常緑樹の針葉樹)をどこかから持って来て、北側は貝塚息吹の垣根にしたのでした。東が玄関アプローチです。家の回りは長い年月ですっかり苔むした庭になり、家の回りに植えた木々も延びて、毎年庭師さんを三人ほど頼んで手入れをして貰っています。
 朝朝に少しばかりの草を取りながら一巡りしたり、居間からボーッと眺めて暮らしていられる事に感謝しています。
 
 今夜は雪が少し降って、雪の無かった地面が真っ白になりました。吹雪の音を聞きながら、温かい部屋で静かな一時を楽しんでいます。
 

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