ばあさまの独り言

ばあさまから見た世の中のこと・日常生活のこと・短歌など

高岡万葉まつりに寄せて

2010年10月09日 | 随筆・短歌
 この度富山県高岡市の高岡万葉まつりに行って来ました。一つには、私が高岡万葉短歌大会に短歌2首を応募していて、落選だと解ってはいたのですが(入選の場合は一ヶ月位前に通知が来ます)佐々木幸綱氏の講演をお聞きしたかったことと、もう一つは、夫が大学で同じ研究室だったお二人の女性が、たまたま高岡市とその近くに住んで居られて、卒業後53年ぶりにお会いすることになったからです。
 日頃から夫とそのクラスメイトとは、メールでのやり取りのある方々でしたし、私のブログを読んで下さっているので、初めてお会いしたはずの私も旧知の間柄のように親しくお話をさせて頂き、とても楽しいひと時をご一緒させて頂きました。
 皆さんも53年の時をあっという間に取り戻し、あれこれと話が弾みました。お互いに重い月日を歩んで来たはずなのに、この明るさと幸せ感はどこから来るのでしょう。10月の日差しにふさわしく、楽しい歓談の時間でした。
 高岡で万葉集の朗唱会があることは、約10年近く前から短歌を応募してきた私には、解っていたのですが、実際に高岡の古城公園で行われた、朗唱会を拝見して、その見事さに圧倒されました。
 参加される皆さんはそれぞれ万葉時代の衣装を纏い、お堀の池の中程に屋根付きの立派な水上特設舞台が浮かんでいて、そこで思い思いに朗唱するのですが、その節回しは自由で、謡いであったり、昔からの短歌に付いていた節回しで歌ったり、様々な詠み方がありました。更にそれに数人の舞踊が付いていたりして、とてもみごとなものでした。これ程格調高く、しかも自由に表現するということは、まさに万葉集の心だと感動して、うっとり眺めて楽しんで来ました。夕方には、道端にも木立にも灯籠の火が灯り、池にも灯籠が浮かべられて、暮れゆく程に一層幻想的でした。
 これ程素晴らしい催し物のニュースが、あまり他県には知れわたっていないのではないかと云うことが惜しいと思いました。おわら風の盆とか、立山と黒四ダム、富山湾の蜃気楼、五箇山など、富山といえばそんなことが想い出されるのですが、この万葉集の朗唱会はもう21回にもなり、3日2晩通しで詠まれる万葉集は、私たちが鑑賞できたどの場面も素晴らしいものでした。
 私ももっと若くて元気があったら、額田大(ぬかたのおおきみ)のような衣装を纏い、「野守は見ずや君が袖振る」とか、出来たら好きな防人(さきもり)の歌など、詠みたいものだとふと思った位です。お聞きすると、全国各地からおいでになる方も居られるようでした。
 朗唱会に先立って、私達二人は、小高い万葉の丘にある美しい高岡万葉歴史館へ行って、短歌大会の授賞式の様子を見たり、佐々木幸綱氏の講演をお聞きしました。歌集「眠ってよいか」の著者、竹山広氏の歌についての講演で、大変興味深くお聞きしました。(「眠ってよいか」は以前ネットで購入したことを書きました)
 大伴家持(おおとものやかもち)は越中(えっちゅう)の国守(こくしゅ)として、5年程この地におられたそうです。その万葉の丘を下って、金屋町の千本格子の家並みと石畳の路地、山町筋の土蔵造りの商家、高岡大仏、赤レンガの古い銀行、など見学しました。数年前に途中下車して拝観した瑞龍時なども見事で、城下町らしい数々の見所を大切に守っている市民の皆さんに感心しました。また、万葉歴史館の係員の方、道案内してくださった古城公園の祭りの役員の方、幾度か乗ったタクシーの運転手さんも、皆さんとても親切で温かく、人情の細やかさが手に取るように伝わってきて、旅を一層豊かなものにしてくれました。
 夫の友達は、なんとも言えない聡明さと、品性を兼ね備えておられ、遠く及ばない私は、少し恥ずかしい気持ではありましたが、和やかな雰囲気に引き込まれて、いつの間にか心が満たされてゆく豊かな時間を持たせていただきました。あの世で娘への土産話が出来たと喜んでいます。この年ですから、何時どうなるかは、神のみぞ知る身ではありますが、少なくとも共有することが出来た貴重な時間と、皆様のご好意に感謝して、未だにその余韻に浸っています。

君待つと吾が恋ひ居れば吾が屋戸(やど)の簾(すだれ)うごかし秋の風吹く
                          万葉集 額田王(ぬかたのおおきみ)
白銀(しろがね)も黄金(くがね)も玉もなにせむにまされる宝子にしかめやも
                          万葉集 山上憶良(やまのうえのおくら)
もののふの八十(やそ)をとめらが汲み乱(まが)ふ寺井の上の堅香子(かたかご)の花
                          万葉集 大友の家持


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